幕末・維新

中岡慎太郎と龍馬暗殺 #3

「今井信郎裁判」 今井信朗は明治三年、龍馬殺害の有力容疑者として刑事裁判をかけられた。その供述内容は、暗殺経緯で、特に今伝えられているものと差異が無いので省くが、佐々木只三郎からは「御指図である」と言われたという。当時、旧幕府では、閣老や重…

中岡慎太郎と龍馬暗殺 #2

「今井伸郎とその孫」(新人物往来社)「龍馬暗殺の謎を解く」より 今井伸郎という人物がいた。会津藩の京都見廻組与力頭であった。どの本にも必ず出てくる人物である。当初はこの今井が、龍馬を斬ったとされていたが、最近では、同じ見廻組の小太刀の名人、…

中岡慎太郎と龍馬暗殺 #1

「詩集アフリカとその言葉達」より転載 http://tjhira.ld.infoseek.co.jp/nakaoka.htm ~序文~ 中岡慎太郎と坂本龍馬の暗殺事件については、以前から書いておきたかった。何故なら常に坂本龍馬よりも、中岡慎太郎の扱いがぞんざいだったからだ。龍馬暗殺に…

松尾多勢子小伝

松尾多勢子の尊王運動' 松尾多勢子は文化八年五月二十五日山本村(現飯田市山本)竹村党盈の長女として生れた。幼時父の実家座光寺の北原家に往き北原因信を師として国典和歌を学んだ。人となり穎悟質実日夜怠ることなく学業に励んだ。十九歳伴野村(現豊丘…

松尾多勢子 「やじより」 最終幕

最終幕 「品川卿」 ふと、声が掛けられて、品川弥二郎は我に返った。 皇居内控室、どうやら物思いに更けて、すっかり我を失っていたらしい。 従者のひとりが怪訝そうに、いったい何があるのかと、空を見上げた。何もない青空と分かると、いよいよ不可解な顔…

松尾多勢子 「やじより」 第十三幕

第十三幕 明治二十五年、八十二歳になった松尾多勢子は建白書を品川弥二郎に託した。 「宮司神官の待遇を国の判任とすべし」 これは平田学尊皇敬神思想の集大成であった。 「公私の外であるが、松尾の婆さまの願いは何とか叶えてやりたい」 品川弥二郎はこれ…

松尾多勢子 「やじより」 第十一、十二幕

第十一幕 明治十四年、松尾多勢子は七十過ぎの老いらくを伊那谷で悠悠自適に過ごしていた。 夫の松尾淳斎は昨年他界した。長州藩筆頭の桂小五郎……いや、木戸孝允も既にこの世にはない。昔の誼を通じているのは、もう品川弥二郎しかいなかった。 あとの者は、…

松尾多勢子 「やじより」 第十幕

戊辰戦争により長州藩の若者は不在で、ただ一人、岩倉具視だけが 「留まりあれ」 と執拗に勧めてきた。 実は岩倉具視にはひとつの考えがある。多勢子に客分として岩倉家の奥を任せようというものである。 「ここにおれば、そのうち長州はんも帰られる。品川…

松尾多勢子 「やじより」 第九幕

第九幕 慶応三年十一月十五日。 この日、坂本竜馬三十三歳の誕生日。陸援隊長・中岡慎太郎とともに河原町近江屋にいるところを、龍馬は刺客に魘われる。刺客は新選組とも旗本見廻組ともいわれるが、未だに定かではない。 とまれこの日、坂本竜馬は呆気なくこ…

松尾多勢子 「やじより」 第八幕

第八幕 天狗党事件は農民義兵を形造り、武士だけでは割り切れない可能性を示した。草莽の力は少なくとも飯田藩を動かした。この実績は紛れもない事実である。相楽総三はその力に着目した。 「赤報隊」 すなわち草莽の志士で形成される組織である。相楽総三は…

松尾多勢子 「やじより」 第七幕

第七幕 伊那谷に戻ってからの松尾多勢子は、一気に勢いを取り戻した幕府方の探索から逃れ出した志士たちの 「一時避難所」 の役割を果たした。 ところでその頃の松尾家には、ひとりの勤王の士が逗留していた。彼の思想は勤王倒幕であると同時に、徳川倒幕後…

松尾多勢子 「やじより」 第六幕

第六幕 長州藩邸の庇護暮らしも悪くはなかった。 大名屋敷だけあって、居心地はよい。老婆の身に向けられる眼差しは羨望で、若い娘たちには申し訳ないが (まんざらな気分じゃわ) と、多勢子はにこにこしていた。 平田一派の詮議も、躍起になっていた割には…

松尾多勢子 「やじより」 第五幕

第伍幕 幕末史上珍妙滑稽な「足利三代木像梟首事件」 が起きたのは、文久三年二月も末のことである。 首謀者は角田忠行、平田門下に連なるひとりである。この事件は北山の等持院に祀ってある足利将軍三代の木像を盗みだし、首を斬って三条河原に曝すというも…

松尾多勢子 「やじより」 第四幕

第四幕 この年、長州派公卿のひとりである姉小路公知が暗殺される。 さては徳川派公卿の差金かと、その意趣返しに幕府用人から連なる者にまで、京都市中は凄惨な暗殺が連日連夜行なわれた。天誅暗殺の血飛沫がいよいよ苛烈を極めると、それを取り締まる新選…

松尾多勢子 「やじより」 第三幕

第参幕 要人暗殺がピークに達すると、幕府方京都守護職松平容保は治安の強化に乗り出した。 幕府の密偵を増やし、新規取締機関として新選組を設置したのである。これらは尊皇攘夷の魁たる長州藩に目をつけ、怪しいと睨めばアジトを調べ上げたし、場合によっ…

松尾多勢子 「やじより」 第二幕

第二幕 松尾多勢子が上洛したのは文久二年(一八六二)九月十四日、当年五十二歳のときである。人間五十年とうたわれた時代、彼女の一生は穏やかな晩年のなかにあるべきである。それを押し留めて上洛に踏み切った理由は 「尊皇憂国」 の一言であった。 多勢…

松尾多勢子 「やじより」 第一幕

やじより 第一幕 明治二十七年(一八九四)六月十日、ひとりの老婆が信州伊那谷で長命を遂げた。 松尾多勢子、享年八十四歳。 この老婆の死は、ひとつの時代の終焉を意味していた。 長州藩出身の志士たちは、大なり小なり松尾多勢子と関わりを持っている。諸…

赤き心を おんな勤王志士・松尾多勢子を読んで

この本を土台にドラマ化が検討されたとのことであるが、実現せずによかったかなとの読後感。小説であるからやむを得ないのであろうが、引っかかる箇所が多くて、こんなに読むのに困った本も初めてだ。平行して事実関係の資料を読んでいたので特に違和感を感…

赤き心を おんな勤王志士・松尾多勢子

今、札幌の古書店より着く。というより首を長くして待っていたので、郵便受けをのぞきに行ったら届いていたということです。 帯書きに 密偵・多勢子の活躍がなければ、幕末の歴史は違うものになっていた! 五十二歳で志を立て、 信州飯田から 京へのぼった …

たをやめと明治維新 松尾多勢子の反伝記的生涯

もう一つの「夜明け前」と帯書きにあり。 幕末明治の激動期を生き抜いた一人の農民女性の生涯を残された資料に即して丹念に追い、歌人・妻・母・養蚕家・平田門人・勤皇家といったさまざまなアイデンティティをもったその姿を首尾一貫した「人生の展開」に押…

中岡慎太郎と坂本竜馬《薩長連合の演出者》

中岡慎太郎という人物への認識を一変させた、記念すべき本で、引っ越しの際、相当数処分したものの、この本は残っていました。日焼けしてしまい年月も感じさせられる本になっています。中岡慎太郎という名前が先なのが最高です。来年の大河ドラマ「竜馬伝」…

新書庫

場違いな事を始めそうで亡き田辺老師にお叱りを受けそうですが、ごく最近知った維新の女傑と言われた人を一人でも多くの人に知って貰おうと、入手可能な本を注文しました。ネットで調べただけでも、十二分に興味をそそられる人物で、手に入れた本から、どう…