たをやめと明治維新 松尾多勢子の反伝記的生涯

もう一つの「夜明け前」と帯書きにあり。

幕末明治の激動期を生き抜いた一人の農民女性の生涯を残された資料に即して丹念に追い、歌人・妻・母・養蚕家・平田門人・勤皇家といったさまざまなアイデンティティをもったその姿を首尾一貫した「人生の展開」に押し込めることなく、葛藤と矛盾を孕んだ「人生の迫力」として描き出す。歴史の〈常識〉的見方に挑戦し、既存の〈明治維新史〉の解体と再構築を迫る待望の翻訳書!(解説=長野ひろ子)

松尾多勢子〔1811-94〕がきわめて非凡な女性だったことは、多くの人が認めるところであろう。何と言っても1860年代にあって、男女を問わず、農民が京都に行って勤王家になった例がはたして他にあったであろうか。…私にとって、多勢子の書き遺したものは当初、徳川末期の女性が自分自身の生活をどのように捉えていたかを理解するための一つの手掛かりくらいにしか考えられなかった。だが、そこには豪農の生活や、国学平田篤胤門、さらには明治維新につながる出来事に参加した庶民の奮闘がしのばれる、思いがけない眺望の広がる窓が開かれていた。…」(「日本語版への序文」より)
アン・ウォルソール著 ぺりかん社