三宝聖典 第一部 六一項 チンチャー女の腹帯

チンチャー女の腹帯

時に世尊、サーバッティーに帰りたまえり。世尊への信仰はますます高まり、供養は水のごとく教団にそそがれたり。異教徒はこれをねたみ、チンチャー女にそのさまたげを依頼せり。それより日ごとサーバッティー祇園精舎との道に、かの女の姿が見らるるごとくなりぬ。
 
人々の精舎より帰る頃、かの女は精舎に向い、人々の精舎に行く頃、かの女は精舎より帰るごとく見せかけたり。かの女は夜の宿りが香室なりと言いふらし、いく月かして臨月近き姿をなし、世尊の説法の最中に立ち上りてなじれり。
  
「シャモン、おんみは大法を人々に説く。されど何ゆえ、わがために産室を作らざるや。おんみには大施主多数あり。楽しみを充分にむさばぼりつつ、何ゆえ今その報いを恐るるや。」

「その事の真偽はおんみとわれのみ知るなり。」
と世尊答えたまえば、一匹のネズミあらわれ、チンチャーに近づき、その腹帯をかみ切ると、風にわかに起こり、衣服をはらい、腹にかくせる木の盆は落ちたり。
 
人々にののしられつつ、チンチャーは精舎を逃れたるが、大地は割れてかの女をのみこみたり。
南伝三四巻七六頁小部本生経四七二マハーパドゥマ・ジャータカ