三宝法典 第二部 第三四項 一人子 ラッタパーラ

 一人子ラッタパーラ

時に世尊、クル国に道を伝え、トーラコッティタ村にとどまりたまえり。人々は世尊のみ名をしたいて四方より集まり、法を聞きて歓喜せり。
 
長者の子ラッタパーラは人々の中にありて法を聞き、人々の立ち去りたるのちに、世尊を礼拝したてまつり、『家にありては、家事にわずらわされて、み教えのごとくなしがたし』と出家を願いたれば、世尊は父母の許しを得よと仰せられたり。
 
かれ、父母に語りたれど、一人子への愛情のゆえに、別るるをたえ得ずして許さざりき。かれは地に伏して食を絶ち七日に及べり。父母は出家修行のなし難きを述べ、家にありて施しをし功徳を積むべしとかき口説けり。
 
父母の依頼にて親族、知人もかれを口説けど、かれの心はますます固まれり。人々は共に語りて、かれの決心が死にいたることを恐れ、出家なすともふたたびあい見ることを期待して、かれの出家を許せり。

かくてラッタパーラは世尊のみもとに出家し、戒と律を受けたり。後にかれは祇園精舎におもむき、静かなる所において心をはげまし、道を修め、ついに覚りを開けり。やがて久しき年月をへて、かれは故郷に帰り父母を見んと思い、世尊の許しを請いたてまつれり。
  
「おんみ今、故郷に帰るも戒律を捨て、欲の道に入るうれいなし。行きていまだ救われざる者を救い、悟らざる者を覚りに入らしめよ。」
 
世尊のこの仰せを受け、身を調えて帰郷し、王の園にて一夜をすごせり。翌日村に入り、次第に乞食をし、父の家の前に立てり。この時、父は庭にてひげをそりつつありしが、ラッタパーラの姿を見てののしれり。
  
「禿頭の悪シャモンのために、わが最愛の一人子を奪われたり。世つぎなきため、わが家は破られたり。」と。
 
ラッタパーラはこれを聞きてすみやかに門を出で、女中の臭くなりたる食物をちりだめに捨てんとなすを貰いうけ、壁に向かいてこれを食せり。女中よりラッタパーラなるを聞き知りたる父は、驚き喜び、何ゆえにわが家に入らざりしかと問いたれば、かれは答えたり。
  
「在家者よ、われはおんみの家に入りたれど、施を受くるあたわず。ただののしられたり。ゆえにすみやかに出でたるなり。」と。
 
父は非を認めて子にあやまり、すでに食事を終わりたれば、明日の食事の招待をし、妻にこれを語れり。
 
明日、父母は食事の用意をし、金銀財宝を積み上げ、出家を止めて施の功徳を積むべく乞えり。かれは財宝のゆえに苦悩が生じ、真の楽しみの得がたきを説き、又もとの妻を飾らしめて、かれの心を動かさんとなせるをいさめ、いたずらに煩わすことなく、すみやかに食を施さるべしと言いたれば、父母は手ずから給仕をなせり。
 
食事を終えてかれは法を説き、歓喜せしめ、座より立ちて詩を唱えたり。
  
「うるわしの髪飾り  輝く宝の首飾り  あでにえがける眉ずみも  覚りの人に用はなし  
 いと臭き身を着飾りて  たえなる香りをくゆらせど  そはいつわりの幻なり
とらわれし鹿が網の目を  断ち切るごとく立ち去らん  誰かこの束縛を楽しまんや」と。

南伝一一巻上七二頁中部八二ラッタパーラ経

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