三宝聖典 第一部 五七項 神通と鉢

 神通と鉢

ピンドーラはバラモンの子弟の師なりしも、世尊のサンガに出家して戒を受けたり。もともとむさぼりの欲深かりしも、ついにその欲を滅ぼして覚りを開けり。

時にラージャガハのジュダイカ長者は、センダンの香木を得て思えり。

「この香木にて鉢を作り、出家に施さん。」と。

かくて鉢を空中に高くつるし、神通力をもって取りたる者にささぐべく告示したり。名高き出家の人びと集まれるも、神通力を示し得ずして鉢を仰ぐのみなり。

通りかかれるピンドーラとモッガラーナはこれを知り、ピンドーラは神通にてこの鉢を取れり。長者は二人を供養し、人びとは二人のあとに従いて竹林精舎に至れり。世尊はそのさわがしさのわけを聞かれ、ピンドーラを呼びたまい、この次第を確かめていましめたまえり。

「ピンドーラよ、これはシャモンとしてふさわしからず。おんみは何ゆえいやしき木の鉢のために神通を示したるや。そは金銭のために芸を見するに等し。信なきものに信あらしめ、信あるものをさらに進ましむるゆえんにあらず。

ビクらよ、在家の人びとに神通を示すことなかれ。この木の鉢をくだきて香粉とし目薬粉の中にまずべし。いまより後、本の鉢を持つべからず、これサンガの規律なり。」

世尊の名声ひろまりて、なかには世尊の不思議、神通を見んものと入門なすものありたり。されど正法に不思議はなく、世尊はねんごろに四聖諦の理を教えたまえり。いまや弟子にも神通を現わすことを禁じたまえば、異教徒は喜びてシャモン・シャカムニに超人の法なし、その教えは平凡なりとののしれり。弟子らのなかには、不満にてサンガを去るものもあれど、世尊はもっぱら正導をなしたまえり。
南伝四巻一七〇頁律小品第五小事ガンド