三宝法典 第二部 第七項 うぬぼれ

うぬぼれ

ブッダ世尊、ギッジャクータ山にとどまりたもう時、かつて世尊のみもとにてビクとなりし修行者サラバは、世尊のみ教えよりはなれ去り、ラージャガハの人々に言いふらせり。
  
「われはシャモン・ゴータマの法を学び終えたり。われ、かの教えよりはなれたるは、かのシャモンの法を学びつくせるがゆえなり。」と。
 
ビクら城内に托鉢し、これを聞きて世尊に申し上げ、その教化を願いたれば、世尊は黙してこれを許されたり。
 
夕べにいたり、サマーディの座より立たれし世尊は、サッピニー河のほとりにおもむき座につきたまえり。世尊はサラバの言いふらせるを確めたまいしのちに、仰せられたり。
  
「サラバよ、おんみはいかにシャモン・ゴータマの法を学びたるや。もしおんみに欠けたるところあらば、われはそれを満たさん。またもし欠けたるところあらざれば、われはそれを善しと言わん。」と。

サラバは黙して答えず、世尊は三たびこれをくりかえされたれど、サラバは沈黙を続くるのみなり。
 
他の修行者ら、かれに返答をうながせど、かれは肩をおとし、しおれて坐するのみなり。かくて世尊は修行者らに仰せられたり。
  
「修行者らよ、われに対し『おんみは正しき見解を得たりと言えど、正しく知れるにあらず。』と非難なす者あれば、われはその人に充分に問いたずぬるなり。われに問われてかくのごとき人ら、三つの状態におちいるなり。かえりみて他のことに言いまぎらすか、怒りと不愉快を示すか、またこのサラバのごとく黙して返答し得ざるなり。
 
修行者らよ、われに対し『煩悩をいまだ滅ぼしつくさず、また衆生の利益のために法を説くと言えど、その教えによりて苦しみよりはなれたるものなし。』と非難なす者あれば、われはその人に充分に問いたずぬるなり。この時においてもまた、われに問われたる人は、右のごとく三つの状態におちいるなり。』と。
 
ブッダ世尊、かくのごとく声高らかに説きて去りたもうや、修行者らはサラバをあざわらいたり。
  
「サラバよ、おんみはおんどりの真似をなし、ときをつくらんとしてしくじれるめんどりにして、牛の王の留守なる時に、空き小屋にてなき声を立つる弱きめ牛なり。シャモン・ゴータマの見えたまわざる時にのみ、強がりをなすなり。」と。

南伝一七巻二九八頁増支部三集第二大品