三宝法典 第二部 第二九項 ビク尼の答え

ビク尼の答え

(時にビサーカと言える在家者、ラージャガハにあり。家栄えてダンマディンナーを妻としてむつまじき家庭を営み、世尊の教化にて在家のまま、ふたたびこの世に還えらざる証しを得たり。ダンマディンナーは夫の導きにより、世尊の教化をさらに受け、夫の許しを得てビク尼となりて精進せり)

時に世尊、ラージャガハの竹林園にとどまりたまえり。ビサーカはダンマディンナーを訪うて問答せり。

「尼よ、わが本体につきて、世尊はいかに説きたもうや。」

「ビサーカよ、世尊は、物・感受・想い・意思・心の五要素をわが本体と説きたまえり。」

「善きかな尼よ、さらに問わん。わが本体の因なる集とはいかに。」

「のちの生存もたらせる、喜びむさぼる愛にして、欲の愛・存在の愛・虚無の愛なり。」

「尼よ、本体の滅とはいかに。」

「正見・正思・正語・正行・正命・正精進・正念・正定の八聖道なり。」

「尼よ、執着と五要素とは同一なるや。」

「同一にあらずして、五要素についてのむさぼりを執着と言う。」

「尼よ、わが本体は永久不変に存在すとのあやまりの思いはいかにして生じ、またいかにして離れ得るや。」

「聖者を認めず、聖者の法を知らず、聖者の法をもって正導せられざる凡夫は、物・感受・想い・意思・心をわが本体と思い、この五要素を持てるものをわが本体と思い、また五要素の中に本体ありとの思いをなし、これらは永久不変に存在すとあやまれり。多く聞く聖なる弟子は、聖者を尊重し、聖者の法に通じ、聖者の法をもって正導せられ、これらの思いをはなるるなり。」

「尼よ、八聖道と三学との関係はいかに。」

「三学の戒は正語・正業・正命に、定は正精進・正念・正定に、慧は正見・正思におさめらるるなり。」

「尼よ、定はいかに、また定の相、定の具、定の修とはいかに。」

「心を一つにして乱さざるが定なり。身・受・心・法の四念住は定の相、四正勤は定の具、しばしばこれらの法を修習なすが定の修なり。」

「尼よ、行はいかに。」

「行に身・口・意の三業あり。呼吸は身に属するがゆえに身行なり。思いはのちに言葉を発するゆえに口業なり。想いと感受は心に属するがゆえに意行なり。」

「尼よ、いかにして、想いの滅したる境地に達するや。」

「想いの滅したる境地に達すべしとも、達しつつありとも、すでに達したりとも思わず、おのずからその心境に入るがごとく心が修められて達するなり。」

「尼よ、想いの滅したる境地に達せるビクは、身口意のうち、いずれが先に滅し、またいかにしてこれより出ずるものなるや、またその心はいずれに向かうならん。」

「口行まず滅し、身行ついで意行と滅するなり。出ずるには出でつつありとも、すでに出でたりとも思わず、おのずからその心境になるがごとく、心が修められて出ずるなり。また定より出でて意行がまず生じ、身行ついで口行と続くなり。また定より出でたるビクの心は、遠ざかりにかたむき、遠ざかりに向かい、遠ざかりにおもむくなり。」 
「尼よ、感受の種類とその性質はいかに。」

「苦受と楽受と不苦不楽受の三種あり。身心に不快なるが苦受にして、変わるを苦とし、怒りがしたがい、身心に快なるが楽受にして、変わらざるを楽とし、むさぼりがしたがい、身心に快にもあらず、不快にもあらざるが不苦不楽受にして、知恵を楽とし、無知を苦とし、愚痴がしたがうなり。
 
ここに欲をはなれ、不善をはなれ、思いと喜楽を有する心の統一の第一段に入りたるビクには、むさぼりが捨てらるるなり。かくて『聖者が達せられたる所に、われも必ずや達すべし』と、無上の解脱に対し願を立つる者は、願によりて怒りが捨てらるるなり。かくて苦楽を捨て、不苦不楽にして清浄なる第四段に達して愚痴が捨てらるるなり。」
 
「尼よ、楽受に対するはいかに。」  「苦受なり。」
  
「苦受に対するはいかに。」  「楽受なり。」
  
「不苦不楽受に対するはいかに。」   「無明なり。」
  
「無明に対するはいかに。」   「明なり。」
  
「明に対するはいかに。」   「解脱なり。」
  
「解脱に対するはいかに。」   「ニバーナなり。」
  
「ニバーナに対するはいかに。」
  
「ビサーカよ、おんみは問いの範囲をこえたり。実に清浄の行は、ニバーナを究極の目的となす。おんみもし望むなれば、世尊のみもとに参りてこの義を問うべし。世尊がおんみに示すがごとく受くべし。」
 
ビサーカはこの答えに歓喜して座より立ち、世尊のみもとに参りてこれを告げたれば、
  
「ビサーカよ、ダンマディンナーは賢き者、知恵ある者なり。われにその義を問うもかくのごとく説くべし。こはその義なり。かくのごとく受くるべし。」と答えられ、世尊はダンマディンナーを法話の巧みなる第一の者なりとして賞賛せられたり。

南伝一〇巻二二頁中部四四有明小経チューラ・ベーダッラ・スッタ
四念住(身は不浄・受は苦・心は無常・法は無我)         
四正勤(すでに起きたる悪は断じ、起きざる努力をし、いまだ起きざる善を起こし、増大を努力する)
ダンマディンナー(法援ビク尼)

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