三宝法典 第二部 第八〇項 仏舎利の分配

仏舎利の分配

かくて世尊、入滅したまえるに、欲よりはなれざるビクらのある者は、悲しみて泣けり。

「あまりにも早く世尊は、入滅なしたまえり。あまりにも早く善逝は、入滅なしたまえり。あまりにも早く世間の眼は、姿をかくしたまえり。」と。

また欲をはなれたるビクらは、正念正知にしてよく耐えたり。

「すべては無常なり。いかにして滅せざることあり得んや。」と。

尊者アヌルッダは、ビクらを教えさとし、残りの夜をアーナンダと法話にてすごしたり。

夜あけたれば、アヌルッダはアーナンダに言えり。

「友アーナンダよ、行きてクシナーラーに入り、マッラー族の人々に告げよ『世尊は入滅なしたまえり。時よろしと思わば詣ずべし』と。」

「かしこまれり、尊者よ。」

アーナンダは衣鉢をととのえて村に入り、人々にこれを告げたり。用件にて講堂に集まりたる人々、これを聞きて大いに悲しめり。

神々とマッラー族の人々は、舞い、歌、音楽、花飾り、香をもって、世尊のみ身体を尊び敬い、供養し、城市の東方、天冠寺に運びて安置せり。

人々はアーナンダに転輪王の身体を処理する法を聞きて、新しき麻布にて五百重に巻き包みたり。さらに鉄の棺に入れ、あまたの香木にてたき木を作り、ダビにせんとせり。四人のマッラー族の首長は、頭を洗い、新しき衣服をつけて、火をつけんとせるも火はつかず。

アヌルッダは言えり。

「かの尊者マハーカッサパは五百の大ビク衆とともに、パーバーとクシナーラー
に至る大道を進みつつあり。尊者マハーカッサパが世尊のみ足を頂礼せざる間は、神々はたき木に火をつけさせざるならん。」と。

かくて人々は七日を待てり。

これより先、マハーカッサパは、タクシャナギリの国にて道を伝えつつありしが、世尊の入滅を聞き、五百の弟子とともに、ただちにパーバーを通りてクシナーラーにいそげり。昼の暑さはなはだしく、一行が道ばたの木かげにて休める時、異教徒アイイは頭にマンダラの花をつけて、その道を通れり。マハーカッサパはこれを問いて、その花が世尊の供養の花なるを知れり。

ビクのうち、スパッタなる者、かつて世尊に強くいましめられしを根に思い、ビクらの歎き悲しむをみて言えり。

「世尊いませる時、これをなすべし、これをなすべからずと、つねにわれらをいましめたまえり。いま世尊、入滅なしたまえば、ほしいままになすことを得ん。」と。

マハーカッサパはこれを聞きて心、痛めり。

「世尊かくれたまいて七日をへざるにかかる言をなすものあり。こは正法の花が根を持たざるがゆえに、風に吹き散らさるるがごとく、これらの人の手にて乱さるるならん。かつて世尊にわが衣を奉りたる時に『マハーカッサパよ、わが滅後に、わが正法を清らかに伝ゆべし』と仰せられたり。われすでにこの遺嘱を受けたり。まことの弟子を集めて、経と規律の中にある正法の真義を定むべきなり。これわが勤めなり。」と。
(かくて後に、五百のビクを選び、最後の一人にアーナンダを加え、ラージャガハにて、雨安居の時に、経と規律の結集をなせり。これに参加せんとしてアーナンダはいまだ有学なるに、夜半、床に寝んとして、頭がいまだ枕につかず、足は地をはなれ、この中間にて煩悩を脱し、心解脱を得てアラハンの聖者となりたり)

かくてスパッダはただちに破門されたるも、のちにさん悔なしてふたたび道に入れり。

マハーカッサパは一行をいそがしめ、天冠寺に参り、み棺のまわりを三度びめぐりて、そのみ足を頂礼して詩をとなえたり。

如来の聖徳ははかり知れず。たえにして世のすべてに超えたり。われ今、伏してならびなき聖者を礼し奉る。

如来は至上にしてきずなく、けがれなく、静かに、欲の枝を断ちたまえり。人と天との最上尊なり。われ今、伏してこの人天の最上尊を礼し奉る。

三毒すでにつき清浄の行を楽しみたもうてたぐいなし。われ今、この最上尊に帰依し奉る。

よくもろもろの迷いを去り、四聖諦を悟りて、ここにいこいたまえり。われ今、この安らぎの地に帰依し奉る。

無上の聖者にましまして、よこしまを正しきに入らしめ、静けさの地に入らしめたまえり。われ今、この最上尊に帰依し奉る。」

マハーカッサパこの詩をとなえ終わりしに、たき木の火はおのずから燃え出でて、み棺を焼き、舎利のみ残れり。マッラーの人々、金の瓶に舎利を入れて奉持し、城内に帰りて安置し、種々に供養し奉れり。

マガダ国の王アジャータサットは世尊の入滅を聞き、使者をつかわし、舎利塔を建てて供養なさんと舎利を求めたり。またベーサーリーのリッチャビー族、カピラ城のシャカ族、アッラカッパのブリ族、ラーマガーマのコーリ族、ベータデーバのバラモン、パーバーのマッラー族、またクシナーラーのマッラー族、それぞれ世尊の舎利を求めて争いを起こさんとせり。この時、ドーナ・バラモンは人々に言えり。

「おんみらよ、われらのブッダは、忍耐を説ける方なり。無上の人の舎利を分配なすに争うはよろしからず。われら一致和合して、八つに分配せん。広く四方に塔を建てしめよ。大衆は具現者の信者なればなり。」

人々これを承知し、瓶にて舎利を八等分して分配せり。かれドーナ・バラモンは、瓶の塔を建てて供養なさんとし、その瓶を求めて与えられたり。

ピッパリバーナのモーリヤ族はおくれて使者をつかわしたるも、すでに舎利を分配し終わりたれば、残れる灰を持ち帰れり。

かくてマガダ国王アジャータサットは、ラージャガハに世尊の舎利塔を造りて供養をなせり。ベーサーリーのリッチャビー族はベーサーリーに、カピラ城のシャカ族はカピラ城に、アッラカッパのブリ族はアッラカッパに、ラーマガーマのコーリ族はラーマガーマに、ベータデーバのバラモンはベータデーバに、パーバーのマッラー族はパーバーに、クシナーラのマッラー族はクシナーラーに、それぞれ世尊の舎利塔を造りて供養をなせり。

ドーナーバラモンは瓶塔(へいとう)を造り、ピッパリバーナのモーリ族は灰塔を造りて供養をなせり。かくてここに八つの舎利塔と、一つずつの瓶塔と灰塔が造られたり。

南伝七巻一四八頁
漢訳長アゴン経四
南伝四巻四二六頁律小品第一一、五百結ガンド