「三宝」71号 五つの幸福原理 #1(希望原理)

三宝71号 1972年10月8日発行
 
五つの幸福原理

  三宝人間学概説
                                (三宝会・主幹) 田辺聖恵
 
人生への疑問を持たない人は、まことに不幸な人であります。幸福になりたいと誰でもが願っているはずなのに、その幸福とは何かということを考えず、したがって本当の実行もしない。それでどうして幸福になれるのでしようか。三宝人間学は、人生への疑問を解き、苦しみを解決し、希望に満ちた生き方を教えてくれます。そして、さらに人生の本当の目的、さらには理想と真実を明らかにしてくれます。
 
この三宝人間学は、今より二千五百年前、釈尊によって開かれたものです。それは多くの日本人が誤解しているような古くさい宗教ではありません。正しい仏教は、もつと生き生きとした人生にプラスになるものです。したがって単なる宗教ではなく、もつと総合的な人間学であります。

三宝人間学は五つの幸福原理によってなりたっています。

一、希望原理 二、解決原理 三、実行原理 四、『根本真理 五、理想原理

 本書はこの五つの幸福原理を概説します。

     一、希望原埋

総括-三宝-ブツダとダンマとサンガが三宝です。ブツダとは真理を覚り、体験しこれを人々に正しく導いた方です。肉体を持って地上に実現なされ、今もその精神が輝いておられるのがシヤカムニと呼ばれる方で、大乗仏教では、法の仏けとして名称をかえ、アミダ仏とか大日如来とか呼ばれます。ブッダとは人間として、いかに生きるかということの真理を実現なさった方ですから、理想者であります。この理想者は、自ら覚ったが故に、他の人々にその覚りを教えようとなされます。覚った方ブッダの教えなるが故に仏教と云います。真理への道を教えられるブッダは、まことにありがたいので、尊敬とと感謝の心をもって信頼と礼拝をさげる気特になりましょう。このブッダは、真理の教え、慈悲の本願をもって正導救済なさるのであって、ただ信じさえすれば、パッと御利益を与えて下さるといった話ではありません。もしそうした救済をして下さるのなら真理などはいらないわけです。

事実インドの一王子として生れられたシヤカムニは三十五才で真理を覚られ、生きる目的を達成されたので、自己中心に生きる必要かなくなり、それからの四十五年間は、自らのために、は何一つ要求なさることなく、ただひたすらに、人々に真理に生きる道を説いて歩かれました。このブッダは宝であり、聖なる方であります。

 ダンマ-真理のことです。真理とは、この世の中のなり立ちの一番もとになる理論です。この世の中がどうなっているかという、すじみちのことてす。それはすべてがつねに、変化してゆくということです。永久不変のものは何もないということです。肉体も精神も物質もすべて変化するということが、最も根本の真理すじみちです。したがって変化するものはあてにならない。あてにならぬものをあてにするから、あてが外れて腹が立つのです。          

 怒りというのは人間のいろいろの苦しみの中で最大のものです。人類は長い間、人間は何のために生れてきたかという疑問を持ち続けてきました。そしてこの怒りという苦しみの解決法を求めてきました。釈尊は、人間が生れてきたのは、愚かさ、根本的な本能によるものだと気づかれました。毎日の新聞を見てみると、何と沢山の愚かなことがのっていることか。個人同士が一寸したことで殺し合い、同一民族同士、他国同士がはてしない殺し合いをしています。殺さねば解決しないというのでしょうか。相手を抹殺してしまうのは、人問関係の解決ではなく、なくなってしまうということです。胃の手術をして取ってしまって胃が治ったと云えましょうか。

 また無知ということは、やがてこのような愚かさに気づくという知性もあることで、この知恵に目覚めた時、人はあまり自己中心にこだわらず、相互のよりよき幸せを実現するために生きるべきだということが分ってきます。‘こうして真理を知ることが人間の取り柄であり、動物と違ってきたところです。人間に人間らしく生きる基準となるすじみちの考え方、真理ダンマは真であり宝であります。

 サンガ-真理を求め、理想者のようになろうとする和合する衆団です。地球上に一人で暮らすということは出来ません。太陽、熱と光り、水と大地、空気、人間関係、環境すべてが私たちをとりまき、生存をさせてくれます。そしてただ生きるだけでなく、真理を実現するという生き甲斐を見出すことが出来るようになりました。この和合、人と人、人と物、物と物、すべてが調和し、共存するということは人類の願いであり、その方向に向って進むことが幸福であります。手にふれるものすべてが金になることを願った王様が、自分の娘や喰べる物まで金になって、とうとうそのあやまりに気づいたという童話がありますが、ろくに聞きもしないステレオを飾りたて、間借りして自動車を買い、消費のみに走りまわっている日本人は、全く童話そのものです。真理実現のための和合衆団、サンガは幸福であり、善であります。

 ブツダ-理想者(聖)ダンマ-真理(真)サンガ-和合衆(善)この三つはこの世においてもっとも価値あるもので、真実三宝であります。これはあなたに幸福を必らずもたらしてくれますし、生きることのすべての問題の基準となります。

 私たちは、日常は大した迷いもないつもりで暮らしております。しかし一度、愛情が裏切られたり、事業がゆきづまったり、慢性病になったり、年老いてきたり、生き甲斐を見出し得なかったり、むなしさを感じたりすると、どうにもならないような心境におちこんでしまいます。

 人生への疑問をもつことから人間の目覚めが始まります。そしてそれは真善聖の三宝人間学によって解決されます。