三宝聖典 第一部 五八項 超人の法

超人の法

世尊、ベーサーリーの郊外の森にとどまりたもう時、世尊のサンガより去りて間もなきスナカタは人々に言えり。

「シャモン・ゴータマに超人の法なし。またすぐれたる智見なし。かれみずから考慮せる思いつきの法を説くのみなり。その法によれば、思考さえなすものは困難なる修行をなさざるも、苦なき境界に達すという。」と。

尊者サーリプッタは早朝の托鉢の中途、これを聞きて世尊に申上げたり。世尊は、

サーリプッタよ、スナカタは怒りでかくのごとく言えるも、かれはののしらんとして、かえって如来をたとえたるなり。『その法によれば、思考さえなすものは、苦のなき境界に達す』とは如来をたたうるものなり。この愚かなる者は、われに対し『かのブッダは、如来・応供・正等覚者・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・ブッダ世尊なり』との信なし。またわれに、変境通・天耳通・他心知通の三種の神通力あるを知らず。
 
サーリプッタよ、ここに如来の十力あり。この十力をそなえて、如来はもののありさまを知り、人々に法を説くなり。その十力とは、如来は道理を道理と知り、不道理を不道理と知る。衆生の過去、現在、未来の行いとその果を知る。行いによりていかなる結果を招くやを知る。
 
衆生の種々のことなれる境界を知る。衆生の種々のことなれる性質を知る。衆生の機根の優劣を知る。数多き心の統一、解脱につきてあまねく知る。衆生の過去の生と死後の生ずる所を知る。また天眼をもって衆生の行いの報いたる幸、不幸を知る。一切の煩悩を断ちつくし、心解脱、慧解脱を現在にみずから体得せりと知る。

サーリプッタよ。かくのごとく知りつつ『シャモン・ゴータマには超人の法なし。充分にすぐれたる智見なし。』と言い、その言葉を捨て、考えを捨てざれば、必ずや地獄におちるべし。」と仰せられたり。
南伝九巻中部第一二獅子吼大経南伝二九巻二五四頁小部本生経九四