三宝聖典 第一部 五四項  尼僧教団の成立

尼僧教団の成立

世尊、父王の葬式をすませニグローダ林にとどまりたもう時、マハーパジャーパティーは世尊のみもとに参り、婦人の出家を三度願いたれど、世尊は三度これをしりぞけたまえり。
 
世尊、それよりベーサーリーに帰り、重閣講堂にとどまりたまえり。マハーパジャーパティーは髪を切り衣をつけ、多くのシャカ族の婦人らをともないべーサーリーに旅立ち、はだしにて足はれちりにまみれ、涙にぬれて講堂の戸口に立てり。
 
アーナンダはこれを見て、その志をあわれみ世尊に出家の許しを願えり。

「アーナンダよ、婦人の出家を乞うことなかれ。」

アーナンダは二度願うて二度しりぞけられたり。アーナンダはさらに申し上げたり。 

「世尊よ、もし婦人にてこのみ教えに従いて出家せば、その婦人は心の道順を通りて覚りに至るものなるや。」

「アーナンダよ、婦人もこの教えに従いて出家せば覚りを開くならん。」

「世尊よ、もし婦人にその資格あるなれば、世尊の叔母君にあたり、養育して乳をさし上げし功あるパジャーパティーはじめ、その他の婦人の出家を許されてしかるべきならん。」

「アーナンダよ、もし婦人にして次の八敬法を守るなれば、出家を許すべし。

一つ、たとえ入門より百年のビク尼も、その日受戒のビクに座より立ちて礼拝し、合掌して尊敬すべし。
二つ、ビク尼はビクなき所に、安居をなすなかれ。
三つ、半月ごとにビク尼はビクのサンガより反省会の指導を受け、教えを乞うべし。
四つ、安居を終えしビク尼は、サンガにおいて、おのれの罪の教示を受くるよう乞うべし。
五つ、重罪をおかせるビク尼は、サンガより半月間の別居を受くるべし。
六つ、若年のビク尼は、二年間、六法を修めて後、サンガに受戒を乞うべし。
七つ、ビク尼はいかなることあるも、ビクをののしり非難なすことを得ず。
八つ、ビク尼はビクの罪をあぐることを得ず、ビクはビク尼の罪をあぐる事を得。」
 
アーナンダはただちにこの旨を婦人らに伝えたれば、パジャーパティーは、
  
「尊者よ、われらこの八敬法を頂きて生涯おかすことなからん。」と誓えり。

世尊はこれを聞きたもうて仰せられたり。

「アーナンダよ、もし婦人がこの如来の教えによりて出家せざれば、この教えは永く清らかに、正法は千年の間伝わらんも、いま婦人ら出家なしたれば、この教えの清浄は永く続かず、正法は五百年の間伝わるのみならん。
 アーナンダよ、いかなる家にても婦人多く、男子少なければ盗賊におかされ易きがごとし。アーナンダよ、それゆえ われは水をあふれせしめざるために、湖に堤を築くがごとく、ビク尼に対し、この八敬法を保たしむるなり。」
 
この時、ヤソーダラーをはじめ、多くのシャカ族の婦人らも、マハーパジャーパティーに従うて出家を許されたり。
南伝二〇巻一九四頁増支部八集第六ゴータミー品
南伝四巻三七八頁律小品第十ビグニガンド