既得権益派が息を吹き返すことは確実だろう。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■11月某日 自民党に嘘つき呼ばわりされてきた野田総理が、安倍総裁との党首討論で解散を表明し、12月16日の衆議院投票日が決まった。自ら呼びかけた党首討論における覚悟の上の解散表明だった。解散を決意したのはつい最近の事だ。輿石―安住―樽床ラインによる野田下しの動きが野田総理自身の耳に入ったからだ。「野田では総選挙は勝てない、細野豪を顔にしよう」というクーデターだ。党首討論の前日に民主党幹事会で「年内解散反対」が決議されたことにより総辞職の機運が表面化したところで、総理の専権事項を最終的に行使したのだ。わざわざ、小学校時代の通知書を紹介し「バカ正直」と先生に評された事を開陳していたことでも想像つくが、この嘘つき呼ばわりが相当応えたことは想像に難くない。が、それだけが理由ではなかったのだ。
 この党首会談における野田総理の決断を評価する向きもあるが、ホントにそうなのか。支持率が上がるとの見方もあるが、それも一時的なものだろう。党首会談で大ミエを切った「0増5減」の憲法違反の方は是正されるだろうが、比例の40削減は単なる努力目標で幕を引いた。16日解散を条件に安倍総栽に決断を求めたが、逆に「二党だけで決めていい問題なのか」と正論で切り返されていた。野田総理の頭の中にあるのは、消費税増税を実現するために、議員も身を削れという「正論」を国民注視の中でアピールするという、捨て身のパフォマンスだったのではないか。 
 野田総理はこの年内解散を藤村官房長官、前原経済財政大臣と岡田副総理というごく周辺にしか知らせず、前述のように輿石幹事長や安住幹事長代行は蚊帳の外。年内解散説とともにリークされたのが、TPP参加を次の総選挙の争点にするという野田総理の意向だ。TPPを踏み絵とすれば、民主党はさらに離党者を増やし、衆議院での過半数を失う事は目に見えているし、実際にそうなった。解散決断後、今日時点ですでに9名が離党した。
 次の総選挙で大惨敗必至の野田佳彦の生き残り戦略としては民主党員を消費増税やTPP政策で純化させ、例え50人規模の政党になっても自民・公明に対して一定の影響力を残すという方針転換に踏み切ったのだ。年内解散を見送れば、一番困るのは財務省だ。当初は野田内閣で来年度予算も手掛ける方針だった。財務省の番犬として消費税増税に政治生命を賭けた野田にすれば、財務省との間に亀裂を生むことは避けたい。シナリオを書いた財務省にしても、第三局が選挙準備体制を整える前に解散総選挙をやれば、自民、公明、民主という消費税増税のための連立関係は維持されると読んだのだろう。離党者が出れば、その分、各候補者の政治資金の分け前は増える。「いやな奴は出ていけ」という開き直りである。野田総理財務省に対してはバカ正直だったが、民主党政権交代に期待した有権者に対しては、見事な嘘つきで終わった。民主党崩壊の総括もでていない段階で民意を問うといわれても、有権者は選択肢だけではなく、政治不信が高まる可能性も強いはずだ。
 次の解散総選挙は国民目線でいえば、消費税、原発、TPP,オスプレイなどが争点になるべきだが、財務省や米国とともに既得権益にしばられた大手メディアも争点隠しの世論操作に邁進するに違いない。野田総理の「自爆テロ」解散の背後にある、官僚主導による日本の談合体質は、実に危険な時代の予兆である。おそらく、総選挙で比較第一党の座を手にするであろう自民党は無制限の金融緩和策や公共事業への大々的な投入を安倍総裁が早々と打ち出している。「コンクリートから人へ」の政策は再び「人からコンクリート」に暗転するはずだ。既得権益派が息を吹き返すことは確実だろう。いやな渡世だなー(苦笑)。
 年内解散のとばっちりで、那覇市ハーバービューホテルで予定されていた、鳩山由紀夫(元総理)、「戦後史の正体」や「アメリカに潰された政治家たち」の著者である孫埼享、喜納昌吉(民主党沖縄県連代表代行)によるシンポジウムの司会・進行を頼まれていたが、お流れとなった。次の総選挙でも,政策論争にすらなっていないオスプレイ問題など完全に蚊帳の外に置かれている沖縄にとっては、全国に向けて発信する機会が先送りされて、残念である。
2012.11.16