おりじなる童話 しんせつくんはわすれんぼ

吉永光治のおりじなる童話

しんせつくんはわすれんぼ

あさ こうきが タクシーで がっこうに きた。

こうきが おりると ともだちが どっとよってきた。

「タクシーなんかに のってきて どうしたの」   

「なにか あったの」

ともだちが こうきを まるくかこんだ。

「おばあちゃんが のって いきなさいって いうから のって きたんだ」   

「こうきくんの おばあちゃんのこと」

「ちがうよ」     

「それじゃ しらない おばあちゃんに のせてもらたの」  

「そうだよ。いまはなすから あわてない あわてない」 

こうきは ともだちから おされながら きょうしつに はいった。

「どうして しらない おばあちゃんが タクシーに のせて くれたと おもう」

こうきは ともだちの かおを みながら いすに すわった。   

「はやく はなしてよ」

ともこと かずこが いらいら ごえで いった。

「それでは しずかに きいてください」

こうきは せんせいの くちまねで いった。

「ぼくが いつもの バスに のって いたらね おばあちゃんが のってきて ぼくの まえの ざせきに すわったんだ」

「それから」

「それからね つぎの バスていで バスが はっしゃしたら ぼくの まえに すわってた おばあちゃんが とつぜん たちあがって おりますって さけんで バスを おりていったんだ」

「それから どうしたの」

「ぼくが ふと まえの ざせきをみたらね ふろしきづつみが あったんだ」

「おばあちゃんが わすれたのね」

「うん そうなんだ。おばあちゃん こまるだろうなって ぼく おもったら いつのまにか おりますって こえを だしていたんだ」

「それで バスから おりたの」

「そう うんてんしさん ぶすっとした かおで にらんでいたよ」

「そりゃ なんども きゅうていしゃじゃ うんてんしさん おこるよ」

「そうだね。ぼくが バスを おりたら おばあちゃんが あるいて くるのが みえた
んだ」        

「ふろしきづつみを おばあちゃんに わたしたんだね」

「そうだよ。おばあちゃん ふろしきづつみと ぼくの かおを かわるがわる みてね おやっ まあ ふろしきづつみって ふふって わらったんだ」

「それから どうしたの」

「ぼくのこと しんせつくん ありかとうだって めを ほそめて よろこんでた。ぼくも なんだか うれしくなっちゃった」

「それで おばあちゃんが タクシーに のせて くれたんだね」

「そうだよ。これで おはなしは おわり」

こうきが はなし おわったとき ガラッと きょうしつの ドアが あいて せんせいが はいってきた。

みんな あわてて せきに ついた。

「みなさん バスの なかに ランドセルを わすれてきたひとは いませんか」

せんせいが みんなを みまわしながら いった。

こうきが せんせいの つくえの うえを みると こうきの ランドセルが のっていた。