松のほまれ 松尾多勢子 第十六

第十六 刀自誠意以て水戸浪士に尽くす

かくて、刀自は、浪士の為めに、能ふ限りの便宜を与え.無事に上京せしめんものをと、百方苦慮の折柄、たまたま、浪士等の駒場駅に宿泊せるを聞きて、おもへらく、彼等は、必定、道を名古屋街道に取らん、而してもし、名古屋の大藩を相手として、抵抗せんか、その危険図るべからず、宜しく駒場駅より、引き返しめ、途を山本邑清内路に取り、美濃国津川駅を経て、上京せしめんにはと、急に長男誠を駒場駅に遣はし、監軍藤田小四郎に面会せしめ、告ぐるに誠意を以てせしかば、藤田等大によろこび、誠の案内によりて、清内路峠を越え、遂に美濃に入り、中津川駅に着しぬ。

かくて、藤田等は、誠に別るゝに忍ひず、泣涕して.深くその厚意を謝し、自ら筆を採りて、一詩をしるし、かつ携ふる処の槍一振を添へてこれを誠に贈り、以て感謝の意を表しきとぞ。


(松のかほり 清水謹一著 公論社刊より)

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