おりじなる童話 はな

吉永光治のおりじなる童話

はな

あきこが おかあさんの へやで きょうだいの かがみを のぞきこんでいました。

「どうかしたの」 

おかあさんが へやに はいってくると ききました。

「どうも しないわ」

あきこは へやを ぷいっと でていきました。                

どうもしないことは ないのです。

このあいだ となりの くみちゃんと あそんでいたら くみちゃんが あきこの かおを じっと みつめて あきこちゃんの はな ぺっちゃんこねって いわれたのです。

それからは ずーつと あきこは はなのことを きにしているのです。

あきこは そとに とびだすと いつも あそぶ かわぞいの みちを あるいていました。

あきこの あたまのなかを つんと すました くみちゃんの かおが ぐるぐると うかんで くるのです。

ふと きがつくと いつのまにか みたこともない すすきのはらに あきこは たって いました。     

すすきが かぜに ふかれて しろく ひかっていました。

「なにかんがえて いるんだい」

ふいに こえが しました。

ふりかえると しろいひげを はやした おじいさんが たって いました。  

「なんにも かんがえてないわ」

あきこは つんつんした こえで いいました。    

「そうかな。かおに こまったなあーつて かいて あるよ」

あきこは そっと てで はなを かくし ました。

「やっぱり はなの ことだね」

あきこは おじいさんの こえに こくんと うなずきました。

「かわいい はなじゃないかね」

あきこは くびを よこに ふりました。

それから はなを ちょこんと ちいさな ゆびで つまんで みせました。

「そんなに はなを たかくしたいのかね。それじゃ たかくして あげようかな」

おじいさんは そばの すすきのほを さっと いっぽん ぬきとると あきこの はなを すすきのほで くすぐりました。

「うあっ くすぐったいわよ」

あきこは すすきのほを てで はらいのけました。

「あれっ」

おじいさんの すがたは きえて おおきな すすきのほが かぜに ゆれて いるだけでした。

あきこは はなが くすぐったくて てで はなを ごしごしっと こすりました。

あきこが はなを こするたびに てんぐの はなみたいに ぐーっと たかく のびました。

「こんな たかい はななんて いやだわ」

あきこは はなを みているうちに こわくなって すすきのはらを はしりだしました。

すすきのほが あきこの かおを なでていきました。

ふっと きがつくと あきこが いつも あそんでいる かわらのそばに たっていました。

あきこは はなを そっと つまんで みました。

「ああ よかった。わたしのはなだわ」

あきこは うれしくて はなを なんども なでました。