おりじなる童話 つきよのばんに

吉永光治のおりじなる童話

つきよのばんに 

つきの あかるい ばんです。

みつおさんは かわの そばの いしに すわって きかなを つって いました。

「ちっとも つれないなあ」

うきを じっと みつめて いると ねむくなります。

ふっと きがつくと つきが たかく あがって いました。

みつおさんの そばに みずを いっぱいいれた バケツが おいて あります。

さかなを つったら ぽちゃんと バケツの なかに いれるのが みつおさんは だいすきです。

でも こんやはさかなは いっぴきも はいって いません。

さかなたちは つきみでも してるのかな みつおさんが さおをあげようと したときです。

うきが ぴくぴくんと おどると みずの なかに きえました。

「あっ やっと きたな」

みつおさんは あわてて さおを あげました。

「あれっ なーんだ」

きらきら ひかりながら ちいさい さかなが あがって きました。

「こんな さかな いらないや」

みつおさんは はりから さかなを はずすと かわに すてようと しました。

「おやっ このさかな めを つぶってるのかな。いや そんなこと ないよね」 

つきあかりに そっと てらして みつおさんは びっくり しました。

めを つぶって いると おもったのは ほんとうは かたほうの めが つぶれていたのです。       

「どうしたんだろう」

みつおさんは バケツの なかに さかなを いれました。

「かわいそうになあ」

みつおさんは ぽつんと いいました。

「かわいそうじゃないよ」

とつぜん みずの なかから さかなが かおを だして いいました。

「かためじゃ およぐのが たいへんだろうなあ」      

「そりゃ たいへんだけど ちゃんと めが ふたつあったって ぼんやりおよいでたら いしに ぶつかることだってあるよ」

さかなは めを くるくると うごかして いいました。

「そりゃ そうだけどねえ」

みつおさんは ふっと ためいきを つきました。

「つりともだちが いってたなあ このごろ つりあげた さかなの なかに うろこがはげたのやら せなかが まがったのやら めが かたほう つぶれてるのやら おおくなったって」

「なにかんがえてるの。ぼく かえりたいから かわに かえしてよ」

さかなは びしゃんと はねました。

みつおさんは てのひらに さかなを すくうと かわに かえして やりました。

「げんきでな」

さかなは きらっと すいめんで ひかると かわのなかに きえて いきました。

みつおさんは たちあがると ぐーっと おおきく せのびを しました。  

「あー こんやは つきが とくに おおきく みえるなあ」

みつおさんは つきを みあげているうちに むねの なかが ぽーっと あかるくなって いくのでした。