三宝法典 第二部 第七三項 リチャービー人への教え

リチャービー人への教え

時に世尊、ベーサーリーを去りたもうに、身をめぐらし城をかえりみてほほえみたまえり。

「アーナンダよ、これこの城の見おさめにして、再びこの城に入ることなからん。」

 ビクらこれを聞きて悲しみ歎けり。この噂はリチャービー人の間に伝わり、あい伴いて一行のみもとに来たれり。

「世尊。今ここに世尊、身をかくしたもうなれば、すべての衆は眼を失えるがごとく、再び迷いの闇におち入るならん。願わくば、一ゴウの間なりと寿命をのべて、この世に留まりたまえ。」

「リチャービーの人々よ。迷いのものはすべて無常なり。たとえ一ゴウの間、寿命をのぶるとも、一度は死ぬべきものなり。会うものはすべて別るるなり。いにしえの諸仏もその身をうつしたまえり。われのみこの法にさからいて死をまぬがるること難し。われおんみらに最後の教えをなさん。

人々よ、おんみら共に喜び和合して、あいさからうことなかれ。さとし合いて善きことを考え、規律を守り、礼儀を守り、父母と年長者を敬い、親族互いに親しみ従うべし。国中の祖先ならびに賢者、聖者の塔および廟の祭りをなすべし。

仏法を奉じ、ビクビク尼を敬い、清き信仰をもてる男女を守護すべし。

人々よ、正しき法によりて国を治め、よこしまに民をしいたぐることなかれ。因果の道理を学び、真実の道を信じ、たとえ肉身亡ぶとも、法の中に生くる如来は滅することなしと知るべし。

かかる人は実に慚愧の衣服を着たる者と言いうべし。如来はつねにかかる人を守るならん。またかかる人久しからずして道を成しとぐるならん。かくて国は栄え、民は豊かとなるべし。おんみら生涯この教えを保つべし。」

さらに世尊、ビクらに告げたまえり。

「ビクらよ、おんみらもまた、互いに喜び和合して、水と乳のごとくなるべし。つねに共に集りて道を考え、規律を守り、師と先輩を敬い、静かなる所にて精進なす同学の友に親しむべし。また人にすすめて、道場に法儀を行わしめ、つとめて如来の法を守るべし。

ビクらよ、おんみらは在家者のごとく、生活の業をなすなかれ。またいたずらに討論をなすなかれ。眠りを好み、怠くることなかれ。悪友に遠ざかり、善友に近づき、よこしまなる想いをなすなかれ。法において得るところあらば、さらに向上なさんと心がくべし。

ビクらよ、如来を信ぜよ、その聖法と聖衆を信ぜよ。慚愧の心をもち、多く聞くことを楽しみ、心をさわがしめず、楽しみて教えを行い、喜びて、知恵を修むべし。

ビクらよ、また七覚法を修めよ。無常を観じ、無我を念ずべし。身の汚れ多きを思い、苦を観ずべし。世を楽しめどむさばることなかれ。つとめて静思の行を修むべし。
 
ビクらよ、またつねに身に慈悲を行い、口に慈悲を言い、心に慈悲を思うべし。もし人ありて、おんみらに施すものあらば、平等にこれを分くるべし。道を説くことをいとわず、ブッダの教え以外の法を教ゆることなかれ。また仏道を学ばざるものを見るも憎みねたむことなかれ。よく教えをわきまえ、よくその意義を悟り、よくこれを習いて、ただちに行い、行住座臥、つねに法にたがわざるべし。人のために道を説かんとせば、おのれの得手なるところを教え、その機根にふさわしき教えを説き、賢きと愚かなるものとに心を配るべし。

ビクらよ、おんみらかくのごとく、これを行うなれば、功徳と知恵は日に日に長じゆくならん。かくのごときものこそ、まことによくわが正法を守るものなり。」

さらに世尊、悲しみにみてるリチャービー人の妻らに法を説きてなぐさめたまえり。

六十のビクはこれを聞きて、道をなしとげ、あまたの大衆、煩悩より遠ざかりたり。

南伝七巻九七頁に一部あり
漢訳長アゴン経上木一三八五頁

https://blog.with2.net/link.php?958983"/人気ブログランキング