おりじなる童話 いす

吉永光治のおりじなる童話

 いす

ぼくが いすに すわって マンガを よんでいたら

「けんちゃん」 

だれかが ぼくを よんだ。

「なあーに」

ぼくは ふりかえった。

へやには だれも いなかった。

「おかあさん ぼく よんだ?」

だいどころに いって きいたら

「よばないわよ」だって。

「だれか よんだんだけどな」

ぼくは へやに もどって マンガを よみはじめた。

「ぼくだよ よんだの」

だれかが また ぼくを よんだ。

「あれれっ」

おしりが むずむずっとした。

ぼくは たちあがって いすを みた。

「よんだの ぼくだよ」

いすが しゃべった。「えっ ぼくに なにか ようなの」

ぼくは いすに きいた。

「ちょっと おねがいが あるんだけどね」

いすは ちいさな こえで いった。

「おねがいって なあーに」

「ぼく きみをいつも すわらせて あげてるだろう」       

「きみは いすだから ぼく すわって あげてるんだよ」

「そうだけど ぼくだって すわらせるだけじゃ いやに なるときだって あるんだ」

「へえー いすだって そんなことあるの」

「あるさ きみの おしりばっかり いつもみてるんだからね」

「ぼくのこと もう いいから おねがいって なあーに」

「ああ そうだね ぼく いちどで いいから すわって みたいんだ」

「すわるって なんに すわるの」

「うん きみにだよ」

「ぼくに」

「おねがいだから すわらせてょ」

「ああ いいよ」

「うあーい うれしいなあ」

「でも どうやって ぼくに すわるの」

「ひざに すわらせてよ」

「いいよ」       

ぼくは 座ると ひざのうえに のせて やった。

「うあー なんだか すわりが わるいよ」

いすは あしを ぶらぶら うごかしながら いった。

「それじゃ せなかに のせて あげるよ」

 ぼくは ゆかに てを ついて いすを せなかに のせて やった。

「きもち いい?」

「きもち よくないよ」     

「すわったことが ないからだよ」

「うん そうかも しれないね。ぼく やっぱり すわらせて あげたほうが いいや」

「そうだね きみは いすだもんね」

「きみの おもさ はかってるほうが たのしいや」

「えっ ぼくの おもさ はかって どうするの」

いすは もう へんじを しなかった。

「あっ このあいだ マンガ よんでたら おかあさん いってたっけ。マンガ ばかり よんでると あたまが かるく なるわよって。いすは もしかしたら ほんとうのぼくの おもさを はかってるのかも しれない。マンガばかり よんでる ぼくの おもさを ね。」