三宝法典 第二部 第六九項 師の秘伝

師の秘伝

アンバパーリーの施食を受けられし世尊は、さらにアンバパーリー林を受けられ、しばらく留まりて、種々の法を説きたまえり。

み心のまま、アンバパーリー林に留まりたまいし世尊は、アーナンダとビクらを伴いてベールバの村に向かいたまえり。

時にベールバ村は不作にして食物の価高く、ビクらの食を得がたければ、世尊は仰せられたり。

「おんみらはベーサーリーかワッジーに行きて、知り合いを訪ね、雨安居に入るべし。われもまたこのベールバ村にて雨安居に入るべし。」と。

世尊はアーナンダと共に留まりて(第四十五年の)安居に入られたり。時に世尊に恐ろしき病い生じ、死する程の激しき痛み起れり。世尊は正念を保ち、悩まされずして苦痛を耐えたまい、かくのごとく思念せられたり。

「われ、つきそい人らに告げず、ビク衆をかえりみずして入滅なすはふさわしからず。われまさに精進してこの病いを去らしめ、寿命を永むるべし。」と。かくて世尊は病いを去らしめ、涼しき所に坐したまえり。

木のもとにありしアーナンダは急ぎ近づきて申し上げたり。

「世尊、われは世尊の安らかなるを見て心休まりぬ。世尊、病みたまえば、われ、諸法を明らむることを得ず。されど世尊はビクらに対し、何かを語りたまわらる間は、入滅したもうことなしと思いて、われはいささか心安らかとなりぬ。」

「アーナンダよ、ビク衆はわれに何を待ち望むや。われは内外の区別なく、ことごとく法を説けり。アーナンダよ、如来は諸法に関し、弟子にかくすがごとき、師の握りこぶし、秘伝はなし。如来は『われ、ビク衆を導くべし。』あるいは『ビク衆はわれに頼れり。』と思うことなし。さればさらに何をか語らん。

アーナンダよ、今やわれは老い、衰え、すでに八十歳となれり。古き車が革ヒモの助けによりて永らえるがごとく、如来の肉身も革ヒモの助けによりて永らえるなり。如来は一切の相を思念せざるがゆえに、ある種の感受を滅するがゆえに安らかなり。さればアーナンダよ、みずからを洲とし、みずからを依り所とし、他を依り所となすなかれ。法を洲とし、法を依り所とし、他を依り所となすなかれ。」

南伝七巻六五頁長部ヱハ大般ネハン経
南伝一六巻上三七一頁相応部大篇第三念処相応第一