三宝法典 第二部 第六四項 カピラ城の滅亡

カピラ城の滅亡

ビドーダバ王は兵を進めてカピラ城に迫りたり。カピラ城の住民は弓術に巧みなれば矢を射かけて耳をそぎ、あるいは弓を射るして一人の生命をも取らざりしなり。その巧みさにおそれて王は退かんとせるも「シャカ族の人々は規律を守り虫をも殺さざれば、必ずや、しいて進まば勝つならん。この時を失えばシャカ族を亡ぼす時なし」とのバラモンのすすめを聞きて前進せり。

王は城門を閉ざせるシャカ族に言えり。「門を開くなればしいて争うことなからん。」と。シャカ族のうち、開門を主張なすものありて王は軍を入城せしめたり。

王はシャカ族の者をとらえ穴を堀りて多数を生き埋めにし、象にてふみ殺させたり。また五百人の美しき女をとりことし、他の男女老幼の別なく生命を奪わんとせり。王の祖父なるマハーナーマは王の所にいたりて願えり。    

「われ水に入りて浮び上るまでの間、この城内の者の自由に逃ぐるを許されたし。」
と。王はこれを許したれば、マハーナーマは喜び勇みて水底に沈み、髪を解きて木の根にしばり、尊き死をとげたり。この間に多くの者、城外に去り、またある者は覚悟してあとがえりせり。

王はマハーナーマの水中にある間の長きをあやしみて調べ、その祖父の死せるを知りて後悔を生じ、人々の生命を助け、五百人の女を引きつれて帰らんとせり。親に別れ、夫に離れたる女らは、この王より身を守らんとして王命に従わざりき。王は怒りて女たちを大いなる穴に投げこみて帰れり。

手足をしばられし五百の女らは、一心にみ仏けの救いたまわんことを念じたり。世尊はビクらをともないてこの戦いの場に現れたまい、その裸かなるをあわれみて天衣を与え、盛んなるものは必ず衰え、生あるものは必ず死するの道理を説きたまい、この肉体あれば五欲あり、五欲ありて執着生ず。これを知りて生老病死をこゆるべきを説きたまえり。

女人らはこのみ教えによりて汚れをはなれ、浄き法の眼を得て満足なし、生命を終わりて、それぞれ善き所に生を受けたり。

やがて城中に大火の燃え上がるを見たり。王は七日のうちに死して地獄におつるならんとの噂をおそれ、六日の間身をつつしみたるも、七日目にアシラバティー河にて船遊びなし、その夜半、暴風雨起こりて、王と兵らの生命を奪い去れり。宮殿もまた天火にて焼かれたり。世尊はビクらに説きたまえり。

「身と口と心に悪をなしてこの世に悩み、生命短くかの世にも悩む。家あれば火に焼かれ、水あれば水におぼるる。生命終わりて地獄の火に焼かるるなり。」と。

また過去の因縁を物語りたまえり。

「かくてうらみはうらみを重ね、輪廻に苦しむなり。われ今、頭痛をおぼえ、重き石にておしつけらるるがごとし。これもまたぬぐい去り得ざる報いの一つなり。」と。

法句経註
増一アゴン第二六第二経