おりじなる童話 おふろへおいでよ

吉永光治のおりじなる童話

 おふろへおいでよ

「はやく おふろに はいりなさい」

おかあさんが よぶのは 三かいめ。

「はーい すぐはいりまーす」

おかあさんの こえに はじかれるように ぼくは ふろばへ はしった。

いそいで ふろの ふたを あけて はいろうとしたら ゆげが うわっとたった。

「あっちちちっ」

あつくて ふろに はいれない。

あわてて すいどうの じゃぐちを ひねった。

「あれっ でないや」

ぼくは じゃぐちを いっぱい あけた。

でも みずは いってきも でない。

「へんだなあー」 

ぼくは じゃぐちに みみを あてた。

「なにか きこえる」

じっと みみを すますと はなしごえが きこえてきた。

「まだ うみは つめたいね」

「うん さむくて ぶるぶるだよ」

「はやく ぬくもりたいね」

ぼくは すいどうの じゃぐちに くちを あてると いった。       

「こっちへ おいでよ。あったかいよ」

ぼくは すぐ また じゃぐちに みみを あてた。

「ほら だれかよんでるよ」

「いって みようよ」

「あったかいんだって」

こえが やむと ざざざっと みずのおとが ひびいてきた。

ぼくは あわてて みみを はずした。

じゃぐちから みずが いきおいよく でてきた。

くろい たねみたいなものが ふたつ とびだしたと おもったら みるみる おおきくなった。

「うあっ いるかだ」

ぼくは びっくりした。

「うあーい あったかいよ」

「うあい あったかいよ」

いるかは きもちよさそうに めを ほそめていた。

「ぼくも はいっていい」

「いいよ」

「どぼーん」

ぼくは ふろに とびこんだ。

「バターン」             

ふろばの ドアが あいて おかあさんが かおを だした。

「いつまで はいってるの あらあら みずを だしっぱなしにして」

「あっ おさかながね………」

「はやく みずを とめてちょうだい」

おかあさんは ふろばを でていった。

いるかは どこにも いなかった。

ぼくは じゃぐちに くちを あてて おきな こえでいった。

「さむくなったら また おいでね」