三宝法典 第二部 第五六項 デーバダッタの悪逆

デーバダッタの悪逆

時にデーバダッタはアジャセ王に請うて三十一人の兵士を選び、初め一人をつかわして世尊を殺害せしめ、他の道より帰らしめんとせり。次に二人をつかわしてその一人を殺害せしめ、次に四人をつかわして先の二人を殺害せしめ、かくのごとくして次々と三十一人を殺害して、世尊を殺害せるものをくらまさんとくわだてたり。

時に世尊、ギッジャクータ山より出でて念じ歩みたまえり。兵士は刀をとりて世尊に近づかんとせるも、その威厳にうたれて進みえず、驚きの心をもって尊き御顔を拝したてまつるに、み姿しずかなること大象のごとく、み心はすみわたりたる水のごとくかがやけり。

兵士は喜びの念にうたれて刀を捨て、みもとに進みてみ教えを受け、法の眼をえて三宝に帰依なす信者となれり。他の者もかくのごとく信者となりたれば、デーバダッタのくわだては水の泡となれり。

怒りたるかれは、みずからギッジャクータ山にのぼり、大いなる石をとりて、念じ歩みたまえる世尊に向いて投じたり。すさまじき音を立てて落ちたる石ははずれて、その破片が世尊のみ足にふれ、皮が破れ、血は大地に流れたり。

世尊はおもむろにいわやに入りたまい、大衣を四つにたたみ、右をわきにして休まれ、一心に痛みを耐えたまえり。

これを知りて驚きさわぐビクらのためにいわやを出でられて世尊は仰せられたり。

「おんみら漁士のごとく叫び声を立つるなかれ。おのおのその所に帰りて道を修めよ。いかなる敵も如来に向いて悪をなすことを得ず。」と。

その後、名医ジーバカは傷口を切開し、悪血を出して治したてまつれり。

デーバダッタはさらにアジャセ王に請うて、大象を放し、世尊を殺害せんとくわだてたり。翌朝、世尊は衣をつけ鉢を持ちて城内に入り、食を乞いたまえり。象師はこれを見て酔わしめたる象を放てり。

信者の人々、世尊に他の道を行かれんことを願えども、世尊はおもむろにその道を進みたまえり。酔える象は、はるかに世尊を見て、耳をふり立て、鼻をならし、かけ来たれり。尊者アーナンダは身代りに立たんと三度び世尊に願いたれど、世尊はこれを許したまわず、この大象に向いて慈心のサマーディに入られ、やさしく言葉をかけたまえり。

「象よ、まことの龍象に近づくなかれ、近づかば苦を受けなん。龍象を傷つけなば悪しきところにおちゆく。狂暴なるなかれ、怠くるなかれ。怠くるものは、悪しきところにおちゆく。なんじ、正しきを行えば善きところにゆかん。」

大いなる慈心の力にうたれて、大象は歓喜し、ひざまづき、世尊のみ足を頂きてしりぞき去れり。これを見て人々、みな賛歎なし、供養の品々をたてまつれり。

またビクらは尊者アーナンダが生命を投げ出さんとせる徳をたとえたり。

南伝三七巻一頁小部本生経五三三
南伝三八巻一四四頁小部本生経五四二カンダーラ・ジャータ力
増一アゴン第九五分律三、十誦律三六有部破僧事一九有部薬事五ビナヤ五雑宝蔵経八法句譬論経三その他

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