おりじなる童話  だれのおねしょかな

吉永光治のおりじなる童話 

だれのおねしょかな

ひろい はらっぱに ぼくひとり ぽつん と たっていた。

そらを みあげても ほし ひとつない まっくら。

かぜは そよっとも ふいて こない 

「おかあさん」

ぼく こわくて よんだけど へんじが ない。

だまって めを つぶって いきを とめる。

「けんちゃん けんちゃん」
 
だれかがぼくを よんだ。
 
でも こわくて だまっていた。

「けんちゃん けんちゃん」  
 
また ぼくを よんだ。

「あれっ おかあさんだ」
 
ぼくは こえのするほうに はしった。

だけど こえは すぐきえた。

みみを すましたら どこか とおくで カチカチ カチカチ おとが きこえた。

ぼくは おとのするほうに はしった。

「あっ おばけ」

おおきな おくちおばけが くちを ぱくぱく あけていた。
 
ぼく こわくて こえも でない。

なみだが ぽろぽろおちた。
 
ぼくは なみだを おばけに なげた。

カチカチ カチ おばけは きえた。

おばけは なみだによわいのかな。
 
ぼく うれしくて おおきな こえを だしたら ぱっと めが さめた。
 
あさの ひかりが ぼくの めのなかに とびこんできた。
 
くまの ぬいぐるみが つくえの うえから ぼくを みていた。

ぼくは ぐーつと せのびをした。

「あれれっ ねしょうべん しちゃった」

あしのさきが ひやっとした。

だいどころで おかあさんが ねぎを きざむ おとが とんとん とんとんと ひびいてきた。
 
「おかあさんに しかられるぞ」
 
ぼくは つくえのうえを みた。
 
くまの ぬいぐるみが すまして すわっていた。
 
「そうだ くまくんに たのもう」
 
ぼくは くまくんを ふとんのなかに いれた。
 
いそいで とびおきて だいどころへ いった。     
 
おかあさんは ぼくの ふとんを かたづけにいった。
 
ぼくが ごはんを たべていると
 
「だれの おねしょかな」と おかあさんが わらっていった。          
 
「くまくんの おねしょだよ」    
 
ぼくが いったら おかあさんが また わらった。  
 
ぼくが いそいで へやに もどったら くまの ぬいぐるみが びしょぬれで つくえの うえで むねをはっていた。

「くまくん ごめんね ぼく もう おねしょしないからね」