三宝法典 第二部 第四一項 七人の妻

七人の妻

時に世尊、アナータピンディカ長者を訪れたもうに、家の中さわがしく、荒あらしき声、聞こえきたれり。世尊、座につきて長者にそのわけを問いたまえば、長者は答えて申し上げたり。
  
「長男の嫁、スジャーターはその生家の富と権勢を誇り、父母を敬わず、世尊を
も信ぜず、時おり、かかるさわぎが生ずるなり。」と。
 
世尊はスジャーターを呼ばしめたまいて仰せられたり。
  
スジャーターよ、世に七人の妻あり。第一は人殺しのごとき妻、第二は盗賊のごとき妻、第三は主人のごとき妻、第四は母のごとき妻、第五は妹のごとき妻、第六は友人のごとき妻、第七は下女のごとき妻なり。スジャーターよ、おんみはこの七人の妻のうち、いずれに属するや。」
  
「世尊、われは世尊のこの短き仰せの意味を了解しがたし。願わくばさらに説き明かしたまえ。」
  
スジャーターよ、さらば心して聞くべし。けがれたる心を持ち、夫に対して慈愛なく、他の男に心うばわれ、夫を軽んじ、人をやとうて夫を殺さしめんとなすは、人殺しのごとき妻なり。また夫の仕事を理解せず、夫の財産をひそかに盗まんとなすは、盗賊のごとき妻なり。また仕事を好まず、怠けて食いほうけの欲のみに走り、言葉あらく、夫をしいたげんとなすは、主人のごとき妻なり。
 
またつねに夫に対して慈愛あり、母の子に対するがごとく夫を守り、主人の得たる財を大切に守るは、母のごとき妻なり。また夫に仕えて誠をつくし、姉妹の心、肉身の情深く、恥を知る心にて夫に仕えるものは、妹のごとき妻なり。また長く逢わざ少し友に逢うがごとく、夫を見て喜び、心みだらならず、行い正しくして夫を敬うものは、友のごとき妻なり。また夫にののしられ打たるるも、けがれなき心にてしのび、怒りをいだかずして夫に仕えるものは、下女のごとき妻と言わるるなり。
 
人殺しのごとき盗賊のごとき、主人のごとき妻は、行い悪しく、言葉あらく、敬うことなく死後、善き報いあり得ず。母のごとき友のごとき下女のごとき妻は、行い美しく身をおさえて暮らすなれば、死後、善き報いを得るなり。
スジャーターよ、おんみはこの七人の妻のうち、いずれに属するや。」
 
このみ教えによりて、スジャーターはそのおごりの心くじかれ、悔いさとりて、今日以後、生涯、下女のごとき妻たらんと仏前にて誓いたり。

南伝二〇巻三四三頁増支部七集第六無記品南伝三一巻一二三頁小部本生経二六九善生女本生物語

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