随筆・詩
「牛の瞳」 幼いころ、私の家には二つの家があった。一つは人間の住む藁屋根、一つは牛の住む瓦屋根であった。牛小屋の方が堅固な構造であったから、台風の時は牛小屋に避難した。二階建ての牛小屋には、梯子を使って昇った。そこには藁がぎっしり積まれ、子…
眼にて云ふ (疾中) 宮沢賢治 だめでせう とまりませんな がぶがぶ湧いてゐるですからな ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから そこらは青くしんしんとして どうも間もなく死にさうです けれどもなんといゝ風でせう もう清明が近いので あんなに青ぞ…
ピー缶 池山弘徳 感覚の中で、嗅覚は特別に不思議である。激しい悪臭でない限り、感じる事もあれば感じないこともある。ただ、臭いを感知したとき、時として人間の原初を思い出させる機能があるような気がする。 マルセル・プルーストは「ふと口にした紅茶…
「五月の誓い」 柔らかな 薄ももいろの そよ風が きみどり牧草絨毯の 上を ウェーブしながら 山の頂から 海へ向けて 流れておりますが この黒土の下には 共同殺処分された 牛さん達の 死体が うち重なり うち重なり 眠っているのです それでも 消石灰が 根…