第26回国民文化祭・京都2011「現代詩フェスティバル」第26回国民文化祭京都府実行委員会会長賞 池山弘徳

           「五月の誓い」

柔らかな 薄ももいろの そよ風が

きみどり牧草絨毯の 上を ウェーブしながら

山の頂から 海へ向けて 流れておりますが

この黒土の下には 共同殺処分された 牛さん達の

死体が うち重なり うち重なり 眠っているのです


それでも 消石灰が 根雪のように撒かれた

ブルー シートの 中から

母牛の 膨らんだ 腹から

子牛達が 次から 次から 立ち上かっているのです

子牛達は 夢見ています あの牛舎へ 帰ることを

農夫と農婦が 日向言葉で語ろう場所へ


農夫と農婦は 頭をかかえています

畜産再生と 息子と娘の学費と 畜産飼料の購入価格と

頭を かかえても たたいても 横にふっても

あまりいい知恵はでてきません

電卓が壊れています

電卓は壊れていません が 予算が足りません


農夫は 途方に暮れ

牛舎を ふらり ふらり 歩きます

すると そこでは 子牛達が

よろり よろり 立ち上がっています

そろり そろり と歩いています

殺処分された九十八頭分の子牛達が

鳴いています。 鳴いています。


天には 五月の青空が 失語症のように

静かに 澄みわたっています


ポストに 郵便屋さんが 手紙を届けました

「よみがえってください。

私達の命にかえて

ウイルスは日向の国より外を汚染することは

ありませんでした

それは誇りです 九十八頭の口蹄疫と戦った牛達より」

そう 書かれていました


農婦は手紙をよみます 何度もよみます

隣家の垂直孟宗竹

八匹の鯉のぼりが ひらひらしています

パタ パタ グィ グィ 泳いでいます


農夫と農婦は 決心しました

「もう一度 べぶ飼おう べぶ養おう 二人で」

鯉幟の瞳がみつめる 太平洋の遥か彼方に

希望が 炎のように メラ メラ 揺らぎつづいています


(注)日向(宮崎県)の方言で牛をべぶと呼びます