三宝法典 第二部 第三五項 出家の動機

出家の動機
詩を唱え終わりしラッタパーラはただちに父母の家を去り、王の園におもむき木のもとに坐せり。時に国王、コーラブヤ王は、城を出でて林に遊び、家臣の知らせによりラッタパーラに近づき、挨拶をかわして互いに坐して問答せり。

「尊者ラッタパーラよ、出家の原因に四種ありと聞く。一つに年老いて身の自由を失い、楽しむ所なきため、二つに長く病みて欲を満たし得ざるため、三つに財物を失い衣食にこと欠くため、四つに家族に死に別れ世をはかなむためなり。しかるにおんみは年若く、すこやかに家も富み、家族にも変わりなし。何ゆえにすべての楽しみを捨てて出家したるや。」

「王よ、われはブッダの教えたもう四つのことによりて出家せり。これすべての人のさけがたき悩みなり。その一つはこの世には堅固なるものなし。その二つはこの世には守り手、主もなし。その三つはこの世には得る所なし。一切を捨つるべきなり。その四つはこの世には満足することなく、愛欲の奴れいとなるなり、と。
 
王は八十歳の今日と若き時とをくらべ、気力や武術におとろえなきや。また王は病いの苦を友人、親族に代わらしむることを得るや。また王はいかに富み栄えたもうとも、死をさくることを得るや。死の来たる時、王はあらゆる物を捨て、なせる行いの報いの所におもむかねばならず。また王は、富み栄えてよき国あらば、これを征服して領土を増さんと思うならん。
 
王よ、さればこの世に真によるべきもの一つとしてなし。これらのさけがたき四つのことを見て出家し、かつ道を得たるなり。」               
 
かくてかれは詩を唱えたり。

  「財宝あるも施さず  得ては惜しみて集むるなり  むさぼりの欲はてぬまに
   生命つきはて妻子泣き  死する時には乞食のごとく  無一物となりて従う
   はなし  財宝によりて長寿は得がたし  賢き者は死を恐れず  知恵は財
   よりすぐれたり  まことの知恵によりてこそ  人の完成は得らるるなり
   愚かなる人悪をなし  他の世に生まれて苦しめり  みずからなせる行いに
   より 報いを受けて滅びゆく
   色形よき種々の欲  心を乱すわざわいあり  老いも若きも身はこわれ
   木の実のごとく落ちゆけば  これらを知りて出家せり  まことの道こそす
   ぐれたり」

王はこの教えを信じ、喜びて申せり。
 
「尊者は、よく迷いを出でられたり。われ今より尊者に帰依したてまつる。」
 
「王よ、われに帰依なすなかれ。ブッダとダンマとサンガとに帰依せらるべし。」
王は説のごとく、よき三宝の信者となりたり。

南伝一一巻上七二頁中部八二ラッタパーラ経

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