おりじなる童話 ぬいぐるみ

吉永光治のおりじなる童話

ぬいぐるみ

「うあーん」

ともこが おもちゃ うりばで ないています。

「うさぎの ぬいぐるみないんだからしようが ないでしょう」
 
おかあさんは ともこの かおを のぞきこんで いいました。
 
「いやだよー うさぎの ぬいぐるみが ほしいよ」
 
ともこは ゆかに すわりこんで、あしをパタパタ うごかしながら ないています。
 
「もう一かい さがして みるからね」
 
おかあさんは くまの ぬいぐるみ ねこの ぬいぐるみ ぶたの ぬいぐるみ たくさんの、ぬいぐるみの やまを かきわけながら うさぎの ぬいぐるみを さがしました。       

でも うさぎの ぬいぐるみは みつかりませんでした。

「うさぎの ぬいぐるみ ないから くまの ぬいぐるみにしたら」

おかあさんは ともこに みせました。
 
「くまの ぬいぐるみ いらない」

ともこは くまの ぬいぐるみを あしで ぽいんと けっとばしました。  
 
「だめじゃないの くまさん いたいって いってるわよ」 

「いたくっても いいもん」
 
おかあさんが ひろってきたくまの ぬいぐるみを つかんで また ぽいんと なげすてました。         
 
「おかあさん しりませんからね」

おかあさんは、おこって どこかに いってしまいました。

「うぇーん」  
ともこは おおきな こえで なきだしました

でもおかあさんは もどってきません。

しらない おじさんや おばさんが ともこを みながら いってしまいます。

ともこは てで かおを かくすと なくのを やめました。

きゅうに まわりがしずかに なりました。

ともこは かおから そっと てを はずしました。

さきほどまで たくさんの ひとが かいものを していたのに だれもいないのです。  

ともこは あしもとを  みて びっくり しました。

いつのまにか ともこは たくさんの ぬいぐるみの なかに すわって いました。

「どれにするの はやく きめてね」
 
ともこの あたまの うえから ふといこえが しました。
  
みあげると くまの おやこが たっていました。  
  
「この おにんぎょうに したら」
  
「いやよ ないてる おにんぎょうなんか」
  
「でも かわいいわよ」
  
「いや こんなおにんぎょうなんて」
  
こぐまは ともこの みみを つかんで ぽいんとなげました。
  
「いたい」  
  
ともこは めを つぶりました。
 
 あたまの なかが でんぐりかえって います。         

「まだ ないてるの」 
  
ともこはぱっと めを あけるとおかあさんが たって いました。
 
「やっぱり うさぎの ぬいぐるみじゃない と だめ」
 
ともこは だめっと いおうとして くちを おさえました。
 
「くまの ぬいぐるみで いいわ」

ともこは おおきな こえで いいました。

よしなが・みつはる氏は1937年生まれ。日本人類言語学会会員 童謡詩人、童話作家。講演活動中。福岡市在住。