童話「せんがいさん」 ずきんなしの だいこくさま

童話「せんがいさん」 吉永光治作

ずきんなしの だいこくさま

むかし はかたに せんがいさんと いう おぼうさんが いました。
 
とても えらい おぼうさんで いろいろと おもしろい おはなしが あります。
 
あるひ おかしやさんが せんがいさんの ところへ やってきました。

「せんがいさんは おられますか」

「ここじゃ ここじゃ」  

せんがいさんは にわの くさを とって いました。

「えを たのみに まいりました」
 
「どんな えを かいて ほしいのじや」

「だいこくさまの えで ございます」

「ほう だいこくさまか」

せんがいさんは ての つちを はらいおとすと たちあがりました。

「だいこくさまは どれを みても ずきんを かぶっている えばかりですが ずきんを かぶっていない だいこくさんを かいて いただきたいのです」 
 
おかしやさんは せんがいさんの こまった かおを いちどでも いいから みたい と おもって いたのです。
 
「よしよし たやすい ことじゃ あすにでも かいて おきましょう」
  
おかしやさんは いそいそと かえって いきました。
  
つざのあさはやく おかしやさんが やって きました。
 
「せんがいさん えは できて おりますでしょうか」
 
「さあさあ あがらっしゃい」
  
おかしやさんは いそいで へやにはいりました。
 
そして えをみて びっくり しました。
  
そのえは だいこくさまが とんびに ずきんを さらわれて ハッと おどろいて みぎてを あたまの うえに のばしている ところが かいて ありました。
  
あたまは やっぱり かくれて いました。   
 
おかしやさんは くちを あんぐり あけたまま みていました。

【メモ】仙厓の遺物に、木の株をくっで作つた、四合は入ると思われる漆塗りの木杯がある。内側には金パクがかけられ、外側に赤漆で「家は借り物、親も子もなし、南無酒か如来、たすけ玉へ、綿屋甚吉仙厓」と賛がしてある。仙厓が酒好きであったということは、あまり知られていない。仙厓が書き残した書画をみると、随分酒好きだったことが分かる。それで酒好きの気持ちをよく知りつくしていた仙厓は、酒好きから書画の無心をいわれると、これが酒代にかわることと知りながら「ヨシヨシ」と書き与えたものであろう。自身、親しい酒屋から酒をもらつて、舌なめずりせんばかりの相好をほうふつさせる礼状が残っている。(三宅酒壷洞「博多と仙厓」より)

よしなが・みつはる氏は1937年生まれ。日本人類言語学会会員 童謡詩人、童話作家。講演活動中。福岡市在住。