童話「せんがいさん」 じごく ごくらく もんどう

童話「せんがいさん」 吉永光治作

  じごく ごくらく もんどう

むかし はかたに せんがいさんと いう おぼうさんが いました。

とてもえらい おぼうさんで いろいろ と おもしろい おはなしが あります。

あるひ あるおてらの おぼうさんが せんがいさんを たづねて きました。
 
「ききたいことが ございますが よろしゅうございますか」
 
「さあ どうぞ」
 
「ごくらくとはと きかれたら なんと こたえられますか」
 
すると せんがいさんは ころりと ねころび ました。
 
「それでは じごくとは」
 
せんがいさんは きいたとたん へんじも しないで ぐうぐう たかいびきで ねむって しまいました。
 
もんどうにきた おぼうさんは かんかんに おこりました。
 
「せっかく もんどうに、きておるのに ねむってしまうとは けしからん」
 
おぼうさんは せんがいさんを にらみつけて へやを でようと しました。
 
すると せんがいさんは ぱっと おきあがって おぼうさんを ゆびさして いいました。
 
「そこが じごくじや」 おぼうさんは しばらく そのばに たったままでした。

また あるひのこと かんぬしさんが せんがいさんを たづねて きました。
 
「せんがいさん ごくらくは どこに ありますか」と せんがいさんに ききました。
 
「それは おまえさんが まいにち おがんでいる『たかまが はらに』じゃよ」

「それでは じごくは どこに ありますか」
 
『それは『たかまが はら』の となりじゃ』 と こたえました。

【メモ】仙厓は非常な小男で、いつも墨染の衣をつけていたので、小僧のような感があったと伝えられている。和尚の遺物の法衣から想像すると、五尺(約百五十㌢)足らずの身長ではなかったかと思われる。その面体も、自ら「四国猿の日干の如し」と卑下しているように、美男子でなかったことは閥違いなさそう。そのため、小僧と間違えられてちゃめっ気を発揮した多くの話を残している。ある日、仙厓和尚が相変わらず墨染の粗末な法衣をつけて、茶の葉をつんでいるところに、仙厓和尚に揮ごうを頼みに来た人がいた。彼はてっきり仙厓和尚を小僧だと思つて尊大に「仙厓さんの居らるる寺はとこか」と尋ねた。すると和尚は即座に小僧になりすまし「あの虚白院に居られます」と答えて、茶の葉をつみ続けたという。(三宅酒壺洞「博多と仙厓」より)

よしなが・みつはる氏は1937年生まれ。日本人類言語学会会員 童謡詩人、童話作家。講演活動中。福岡市在住。