三宝法典 第二部 第一四項 他をそしらずして

他をそしらずして

時に世尊、あまたのビクをともないて、コーサンビーに入りたまえり。アーナンダは世尊のつきそい人としてゴーシタ園に住し、ある日、裸形外道の在家の弟子の訪れを受けたり。
  
「尊者よ、何びとの教えが最善なるや。この世においての完成者は何びとなるや。真の幸福者は何びとなるや。」
  
「在家者よ、わが問いに対し、思いのままに答えられたし。すべてのむさぼり、怒り愚痴を捨つるために法を説く人あらば、その人の教えは善く説かれたるものにあらずや。」   
「尊者よ、仰せのごとし。」

「在家者よ、またここにすべてのむさぼりと怒りと愚痴とが捨てられて、芯を切り取られたるタラの木のごとく、ふたたび生ぜざるものとなりたる人あらば、その人は世間において真の完成者、幸福者にあらずや。」

「尊者よ、仰せのごとし。尊者はよく法を説かれたり。尊者はみずからの法を賛歎せず、他の法をそしらずして法を説き、みずからその徳ありと言わずして、道理によりて私見をまじえず、意義を明らかにしたまえり。尊者は、むさぼりと怒りと愚痴を捨てさせんがために法を説かれたり。
 
尊者らは、最善の法を説かれたり。尊者らは、むさぼりと怒りと愚痴を捨てたる完成者、幸福者なり。芯を切り取られたるタラの木のふたたび生ぜざるがごとし。尊者は世間において真の幸福者なり。尊者よ、まことにすぐれたる仰せなり。
 
尊者アーナンダよ、われをウパーサカとして承知したまえ。今日より命の終わるまで、三宝に帰依したてまつる。」

南伝一七巻三五五頁増支部三集第三阿難品