(5)山は山、川は川  吉永光治

 山を見て川と言う人はいないし、川を見てこれを山という人もいない。こうした単純なことが、中々至難なのである。人は山はこれ山と徹見するに一生涯を費やしているのである。なるほど肉眼では山は是山と映じる。しかし、心の中で果たして山を山と正しく見ているかどうかが問題であろう。多くの人々は、山を川と見誤っていないだろうか。あるいは、川を山と錯覚してはいなだろうか。いろんな欲が川を山に、山を川に見せてないだろうか。もしそうだとしたら、正しく山を山と、川を川と見ていないわけだ。禅はまともに、何の条件もなしに山を山と見ていくことに徹するのだ。当然のことを当然としていくだけのことである。極めて平々凡々、何らの悟りもないのが、いわゆる悟った人と言われる人の境地なのである。