おりじなる童話 いぬがそらにむかってほえるのは

吉永光治のおりじなる童話

 いぬがそらにむかってほえるのは

「いぬを さんぽに つれて いってちょうだい」

ぼくが いえに かえったら おかあさんが ゆうごはんを つくりながら いった。

「あした いくよ」

「あした あしたって いつも いって いかないじゃないの。かわいそうだから すぐいって きなさい」 

ぼくは おかあさんの こえを ききながら まどから いぬごやを のぞいた。

おかあさんの こえが きこえたのか いぬの パトラッシュがしっぽを ふりながら そらを みあげて ほえた。

「ほら パトラッシュが よんでるでしょう」

「うん いってくる」

ぼくは パトラッシュを つれて そとにでた。

そとは うすぐらかった。

パトラッシュは ぼくが つかんだ つなを ぐんぐん ひっぱった。

「そんなに ひっぱるな」

ぼくは つなを ちから いっぱい ひッぱった。

とつぜん パトラッシュが はしりだした。

「はしったら だめ」

つなを しっかり りょうてで もって ふんばったけど だめだった。

パトラッシュに ひっぱられて ぼくは はしった。

ぼくは こわくて めを つぶった。 

あしが  ういたり ついたりした。

からだが ふわふわ そらを とんでる みたいだ。

ぼくは めを あけた。 

「うあっ とんでる」 

ぼくは そらを とんでいた。

めのしたを まちの あかりが ほしみたいに ちかちか ひかっていた。

とつぜん しろい ふわふわした なかに ぼくは はいっていた。

しばらくすると ぱっと あかるく なった。

ぼくの まえに パトラッシュが すわっていた。

「あれっ ここは どこ」   

「ここはくもの うえだよ」

パトラッシュが しゃべった。

「しゃべれるの」

「いつも しゃべってるよ。きこうと しないから きこえないだけよ」

「どうして そらを はしれるの」 

「そらを はしりたいと いつも おもいつづけたからだよ」

「ぼくも そらを とんでみたいと おもってたんだ」

「こんど うまれて くるとき ほしに うまれて こようっと」

パトラッシュは くしゅんと はなを ならした。        

めが ほしみたいに ひかっていた。

「ぼくたち とおくから みると ほしみたいに ひかってるんだよ」      

ぼくは おおきな こえで いった。

「そうだね」       

パトラッシュは しっぽを くるくる ふつた。

「かえろうよ」       

ぼくは たちあがった。

パトラッシュは すごい はやさで はしりだした。

ぼくは めを つぶって つなを しっかりにぎった。

「いつまで さんぽさせてるの」

ぼくが めを あけたら おかあさんが めのまえに たっていた。

「パトラッシュ まだ さんぽしたいんだって」               

パトラッシュは そらを みあげて ひとこえ ほえた。