おりじなる童話 とうさんのタイコ

吉永光治のおりじなる童話

とうさんのタイコ

「ランドセルを かたづけんか」

 とうさんの こえが げんかんから へや いっぱいに ひびいた。

「はーい!」

ぼくは げんかんに はしっていった。

とうさんの こえは いまかえったぞ の あいずみたいなものだ。

かあさんが このあいだ いってたっけ。

「いつも どなるんだから いやになっちゃう。とうさんの こえは まるで やぶれた タイコみたい」

でも ぼく とうさん すきなんだ。

おおきなこえで いえないけど おみやげ いつも かってくれるんだ。

「ありがとう とうさん」

ぼくが おみやげもらってたら かあさんが でてきていうんだ。

「おみやげとうさん おかえりなさい」

「でむかえ ごくろう ごくろう」

とうさんは かあさんの おしりを ポンと たたくんだ。     

「いつも ふざけちゃって そんなだから…」

あとの ことばは ぼくしってるけど だまってるんだ。

ぼくは よなか めがさめた。

「ゆめを みてたのかな」

まっくらな へやで とけいの おとが すごく おおきく きこえてきた。

ぼくに はなしかけて くるみたいだ。

こわくて ふとんに もぐりこんだ。

「おしっこ いきたいなあ」 

ふとんから そっと あたまをだした。

まどを みると だれかが ぼくを みているみたいなんだ。

「あさまで がまんしようっと」

でも がまん できなかった。

ぼくは ふとんから とびだすと トイレに はしっていった。 

トイレから でると とうさんのへやから いびきが きこえてきた。

「すごい いびきだ」        

へやを のぞくと ふとんから あしを だして だいのじに ねていた。 

「あれ なんだろう」

ふとんのしたから なにか まーるいものが みえた。

ぼくは しのびあしで へやに はいっていった。

そっと そーつと ふとんに てをいれて だしてみると まーるい タイコだった。

「とうさん、ぼくに かってくれたんだな。もらっちゃおう」

ぼくが タイコを とったら とうさんの いびきが とまった。

ぼくは へやに もどると タイコを つくえの ひきだしに いれて ふとんに もぐりこんだ。

いつのまにか ねむって しまった。

つぎのひから とうさんの やぶれごえが きかれなくなった。

「こらっ おきんか」

「こらっ めしつぶが のこってるぞ」

いつもの こえが でないのだ。

おみやげも かってこなくなった。

ぼくは きょうかな あしたかな まってたけど おみやげは こなかった。

「とうさん どうかしたの このごろ げんきがないね」

ぼくは かあさんに いった。

「おしごとが いそがしいから つかれてるのよ」

ぼくは つくえに すわって とうさんのことを ぼんやり かんがえていた。

「そうだ。 つくえのなか かたづけんかって とうさん いってたっけ」    `

ひきだしを あけた。

「あれっ タイコだ。とうさんの へやから もってきたんだ」  
ぼくは タイコを ゆびではじいた。

「なんだか なさけない おとだなあ。 これを とってきたから とうさん どならなく なったのかな」           

もしかしたら このタイコ とうさんの タイコかも しれない…。 

ぼくは タイコを かえすことに きめた。

あさ めが さめると とうさんの こえが とんできた。

「いつまで ねてるんだ。七じだぞ」

「やった。とうさんの タイコが なりはじめた」  

ぼくは うれしくって おおいそざで へやを とびだして いった。