三宝法典 第二部 第七九項 偉大なる入滅

偉大なる入滅

時に世尊、尊者アーナンダに仰せられたり。

「アーナンダよ、あるいはおんみらにかかる念あるべし。『教主の言葉は終われり。われらの教主なし』と。アーナンダよ、かくみるべからず。わが説き示し、定めたる法と規律とは、これわが亡きのちのおんみらが師なり。

またアーナンダよ、ビクらが今『友よ』の語をもって互いに呼ぶがごとくなすべからず。わが亡きのちは若きビクは年老いたるビクによりて、名あるいは姓にてあるいは『友よ』の語にて呼ばるべし。若きビクは年老いたるビクを『尊師よ』あるいは『尊者よ』と呼ぶべきなり。アーナンダよ、望むなれば、わが亡きのち、サンガのささいなる規律は廃止すべし。」


さらに世尊は、ビクらに仰せられたり。

「次にビクらよ、ブッダ、ダンマ、サンガまたは道、行法につきて疑惑あらば問うべし。のちに師に面接せしも問うことを得ざりしとの悔いをなすなかれ。」世尊はかく三度び仰せられ、ビクらは、三度び黙してあり。

「ビクらよ、さらば教主を尊敬なすがゆえに、おそれ多くして問わざるならん。

ビクらよ、友人が友人にたずぬるがごとき心持ちにてたずねよ。」とさらに仰せられたり。尊者アーナンダは世尊に申し上げたり。

「世尊、不可思議なり。世尊かつてなきことなり。われはこのビク衆が一人なりともブッダ、ダンマ、サンガあるいは道、行法につきて疑惑なきことを信ずるなり。」

「アーナンダよ、おんみは信念によりてかく言えり。されどアーナンダよ、如来は、このビク衆が一人なりともブッダ、ダンマ、サンガあるいは道、行法につきて疑惑なしと、まことに知れり。アーナンダよ、五百ビクの最後のビクも、預流果に入り、不退転となり必ずや正覚に到達なすなり。」

「いざビクらよ、まことにおんみらに告げん。すべてはこわれゆくものなり。わがままならずして精進せよ。」

これ如来の最後の言なり。

かくて世尊は心統一の第一段に入りたまえり。さらに第二、第三、第四段と進み、想受滅定に入りたまえり。かくて想受滅定より出でて第一段に下り、さらに第二、第三、第四段に入りたまえり。第四段より出でて世尊は、ただちに入滅なしたまえり。

世尊の入滅なしたもう時、大いなる地震おこれり。人々は恐れおののき、天の鼓はとどろき渡れり。

南伝七巻一四二頁第六誦品
「諸行は壊法なり不放逸によりて精進せよ。」