おりじなる童話 いちまいの え

永光治のおりじなる童話

 いちまいの え

ぼくは おとうさんと えの てんらんかいを みにいった。

てんらんかいは ひとが いっぱいで うしろから おされながら えを みていた。

「あれっ」

おとうさんが ぼくの そばから いなくなっていた。

「どこに いったのかな」   

ぼくは おとうさんを さがしたけど みつからなかった。

うしろから おされながら はじきだされて きがついたら うすぐらい へやの なかに たっていた。へやは しずかだった。

ぼくが あるくと くつの おとが へやいっぱいに ひびいた。

ぼくは しのび あしで へやを でていこうとした。

ふと みあげると いちまいの えが かべに かけてあった。

そのえには おおきなきが かいてあった。

ぼくが えを みていると えの なかから かぜが ふいてくる みたいだった。

きのはが かぜに ふかれて さらさらおとを たてていた。

「そのえ すきかね」

とつぜん こえがした.

ふりかえると はしごと ほうきを もった おじいさんが たっていた.

「うん すきだよ」

「わしも だいすきなんだ」

ぼくは だまって えを じっと みていた。

「あっ はっぱだ」

えの なかから はっぱが いちまい ひらひらと ぼくの まえに おちてきた。

ぼくは はっぱを ひろった。

「あれあれ はっぱが おちたね。きれいに そうじを しなくちや」

おじいさんは えに はしごを かけた。

「おじいさん なにするの」

ぼくは おじいさんに こえを かけたけど きこえなかった。

おじいさんは よいしょ よいしょ いいながら はしごを のぼって いくと ひょいと えの なかに とびこんだ。

おじいさんは おちばを ほうきで はいて かたづけて いった。

「どこに いってたんだ さがしたぞ」

ふいに あたまの うえで こえがした。

「あっ おとうさん」

「なにを そんなに えを みてるんだ」

「あのね このえの なかに おじいさんがはいって いってね」

ぼくは えを ゆび さした。

「あれっ どこに いったのかな」

えにかけた はしごも おじいさんも みんな きえていた。

「さあ かえろうか」

「また こようね」

ぼくは もういちど えを みた。

かぜは ふいてこなかった。

きのはも ゆれていなかった。

「またくるからね」

ぼくは ちいさい こえで いった。

えの すみっこに はしこが たてかけてあるのが ぼくには みえた。