おりじなる童話 ふしぎなおじさん

吉永光治のおりじなる童話

 ふしぎなおじさん

ともじは はらっぱで あせを とばしながら くさを かきわけて バッタを さがしいます。

「どうしてかな。いっぴきも つかまらないや」

かぜが とつぜん ともじの あしもとを ふきぬけて いきました。

かぜが はしって いった はらっぱの なかほどに きんいろに ひかって いるものを みつけました。  

はしって いってみると それは むぎわらぼうしでした。

「だれが わすれたのかな」
むぎわらぼうしを ひろうと うらがえして みました。

なまえは かいて ありません。

ともじは むぎわらぼうしを そっと かぶって みました。

「うあっ すずしい」

むぎわらぼうしを かぶったとたん あせが ひいて かぜが からだを ふきぬけて いくのです。

「すずしいだろう ぼうや」 

とつぜん うしろで こえが しました。

ふりむくと みどりの シャツを きた おじさんが たって いました。

「その むぎわらぼうし おじさんのだよ」

ともじは むぎわらぼうしを とりもどされそうで だまって いました。

「ぼうや ちょっと めをつぶってごらん」

ともじは おそるおそる めを つぶりました。

つぶった めのなかを みどりが ゆらゆらっと ゆれたかと おもうと ぼんやり

むぎばたけが みえて きました。

むぎのほが おおきく うねりながら わらいあって いました。

「うあーい」

かけだそうと めを あけたら むぎばたけは ありませんでした。

「さあ ぼうや かえしておくれ」

「ひろったんだもん」  

ともじは むぎわらぼうしを ぐっと ふかく かぶり なおしました。

「かえしてくれたら いいもの あげるよ」

「なんでも くれる」

「ああ いいよ」

ともじは むぎわらぼうしを かえしたく ありません。

ふと ともじか そらを みあげると ひこうきが とんでくるのが みえました。

「ぼく あのひこうきがいい」

「あの ひこうきだね」

おじさんは ともじが かぶっていた むぎわらぼうしを とると ひこうきを みあげました。

ひこうきが あたまの うえに とんできたときです。

おじさんは むぎわらぼうしを そらにむかって さっと ひとふりしました。

「さあ てを だしてごらん」

おじさんは むぎわらばうしの なかから ぎんいろに ひかる ひこうきを だすと

ともじの てのひらに のせて くれました。

「このむぎわらぼうし かえしてもらうよ」

「うん いいよ」

ともじは うれしくて りょうてで ひこうきを にぎりしめました。

てのなかでひこうきの エンジンの おとが ひびいています。

とつぜん エンジンの おとが きえました。

ともじは あわてて てを ひらきました。

「あっ ひこうきがない」

ともじか ふりかえると おじさんの すがたは どこにも ありませんでした。

ともじは ぼんやり そらを みあげていました。