時の政権に期待が持てないというのは、実に不幸な時代である。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

2013.02.11
■2月某日 沖縄県那覇市に隣接する浦添市の市長選の結果が判明した。地方選挙だし、沖縄県以外では関心が薄いだろうが、地元ではけっこう話題になっていた。現職で4選目をめざした儀間光男(69)、元浦添市教育長で自民、社民、社大、民主推薦の西原廣美(65)、新人で元NPO法人代表松本哲治(45)の3人による三つ巴の選挙戦。浦添市有権者総数約8万3500人。市議選も同時に行われたが投票率は前回よりも1.48ポイント低い63.30%。当選したのは最年少の新人・松本哲治氏だった。選挙の争点は那覇軍港の浦添市米軍牧港補給基地地区の沖合への移設の是非。現職の儀間氏は浦添移設賛成、松本氏は反対の立場で当選した。06年の米軍再編で嘉手納基地以南の米軍施設の返還を表明しており、あえて、那覇軍港を浦添市沖に移転する必要はないというという主張だった。浦添市長を3期つとめ、下地幹雄元議員とも連携してきた儀間氏が敗れ、自民党から野党までが相乗りした西原候補も敗北した。新人で若手の松本氏が当選したことは、長期の保守市制だった浦添市政にも地殻変動が起こりつつあることの証明かもしれない。むろん、次の参議院選沖縄県政に与える影響も無視できないのではないか。
 安倍総理に「建白書」を手渡した県内41市町村の代表らによる東京行動は思いの他、メディアへの影響も官邸や霞が関へのインパクトも弱かった。安倍総理も沖縄振興策の「満額回答」をお土産がわりに意気揚々と仲井真知事を表敬訪問した。政府としては、後は沖縄を振興策の取引によって沈黙させる方針しか取りえないだろう。例えば、那覇空港第二滑走路建設の予算配分とかも政治的に使うつもりだろう。かといって、沖縄側が普天間基地の県外移設やオスプレイ強行配備を容認するわけにはいかない。政府も建前上は基地問題と振興策をリンクさせないと明言している。沖縄としても、日米両政府や大手メディアの沖縄米軍基地包囲網の壁を突破するしかない。建白書を米国政府に直接届けるとか、あらゆる方策で米国政府に働きかける必要がある。日本政府が、米国に対して日米地位協定の抜本的改定すら口に出せない現状が続くようでは、沖縄は独自の外交・交渉をやり続けるしかない。沖縄差別・抑圧を跳ね返す戦いを具体的にどう展開するか。沖縄と政府の間に決定的な溝がある事が鮮明になった今、そのことが最も問われている局面ではないのか。
 オスプレイから水筒が落下する事故があった。大事には至らなかったが、米軍からの情報公開もいっさいなし。墜落事故はいつ起こっても不思議ではない。米海兵隊は今夏より最大2万人増員体制の方針も打ち出した。MV22オスプレイ12機も普天間基地に追加配備される予定だ。オスプレイは、沖縄だけではなくアジア各地での飛行訓練も実施中だ。尖閣諸島周辺では、中国側の領海侵犯の挑発行為が続き、中国海軍艦船による海上自衛隊護衛艦へのレーダー照射事件も起きた。しかし、中国側はねつ造だと主張している。日本側もレーダー照射に関する証拠となるデータを早めに公表すべきだろう。中国からは「PM2・5」という大気汚染の有毒物質が風に乗って、日本の福岡あたりにも飛んでいる。沖縄でも3日間ほど記録されている。日本が公害を克服した過去の体験と技術を中国に提供することで、少しでも日中の緊張関係を払拭する努力も必要だろう。そのためには政府の動きが前提になる。
 しかし、安倍政権は憲法改正国防軍創設という強行路線を掲げており、原発事故による除染や原発のゴミの処理法も決まらないまま、無謀にも再稼働の意向を打ち出している。TPPに関しては、一応慎重な姿勢を打ち出しているが、米国の圧力に抗し切れるとは思えない。米国に押し切れられた牛肉も日本のスーパーの店頭に並び始めた。カンジンの「アベノミクス」に関しても、批判的な経済学者の声も多く、先行きはまったく不透明だ。時の政権に期待が持てないというのは、実に不幸な時代である。