いまこの国で最大の疑問 小沢一郎はなぜ まだ政界で力を 持っているのか

小沢抜きでは誰も政治ができない

それがこの国の今の哀れな現状である

いまこの国で最大の疑問

小沢一郎はなぜ

まだ政界で力を

持っているのか

民主党の党員資格を停止され刑事被告人として裁判を受けているのにまだ一挙手一投足が話題となり政府も政権与党も野党も彼の存在や発言に動揺し一喜一憂している

 

 冷静になって考えたら、これって、かなりおかしなコトじゃないか。

 刑事被告人の立場にされ、党員資格まで剥奪された“落ち目”の小沢一郎が、いまでも政界の主役でいることだ。政界もメディアも、夜も眠れないほど小沢のことを気にしている。


 野田首相と谷垣総裁が2月25日に“密会”した理由も、小沢一郎だった。会談を申し入れたドジョウ首相は、消費税アップ法案成立への協力を要請し、次の衆院選後、小沢グループを排除したうえで民主・自民の「連立政権」を樹立することを話し合っている。


 野田首相は「このままでは小沢さんに消費税法案を潰されてしまう」と嘆き、谷垣総裁と「小沢排除」で意気投合したそうだ。

 「2月29日の党首討論の前日、たにがきそうさいは『首相が私をとるか、それとも小沢さんをとるかだ』と周囲に語り、それに応えるように、野田首相党首討論の場で、消費税法案について『51対49の党内世論でも手続きを踏んでいく』と答えている。小沢一郎が消費税アップに反対しようが、突っ走ると表明した。つまり、野田首相と谷垣総裁は“小沢外し”で一致したということです」(自民党関係者)

 国会質問でも、自民党野田毅税調会長は「小沢一郎さんは首相と違うことを言っている。袂を分かつ構えがあるのか」とドジョウ首相に“小沢切り”を迫り、自民党大島理森副総裁は、民主党仙谷由人に「われわれは小沢一郎を克服しなければいけない」と説いたそうだ。


 とにかく、誰も彼も、小沢、小沢、なのだ。

 

小沢一郎が総理や幹事に就き、絶大な権力を握っているなら、政界が注視するのも分かります。しかし、いまや裁判にかけられ、民主党からも追放された身です。これっぽっちも権力を握つていない。なのに、政界もメディアも、彼の一挙手一投足に目を凝らし、発言に一喜一憂してる。常識では考えられないことです。そもそも、寄ってたかって小沢一郎をブツ叩いてワル者に仕立て上げ、刑事被告人にまで追い込んだのは、政界とメディアでしょう。だったら、相手にしなければいいのに、気になって仕方ないのだからバカみたいな話です」(政治評論家・山口朝雄氏)

 

小沢一郎に対抗できる政治家がひとりもいない

 

 政界とメディアが小沢一郎のことを気にしているのは、要するに、ポストに就いていようがいまいが、いまでも小沢が政局の中心にいることに変わりないからだ。


 実際、IOO人の小沢グループ」を維持し、野田内閣を倒す力を持っている。大新聞テレビは、小沢の発言を大きく報じている。


 なぜ、党員資格を剥奪され、刑事被告人となりながら、小沢はいまでも政界で力を持ちつづけているのか。


 「一言で言えば、政治家としての力量がほかの政治家を圧倒し、対抗できる政治家がひとりもいないからです。民主党自民党が束になって“小沢外し”に動いているのも、力量を警戒している裏返しです。小沢一郎の凄さは。“構想力”と“実行力”です。この20年を振り返っても、時代に合わせて日本の進むべき道を示し、実際に日本の政治を変えてきた。50年つづいた自民党の一党支配を打破し、2大政党を実現させた。40代で自民党の幹事長に就いたのはダテじゃない。しかも、巨大与党の幹事長から、わずか20人のミニ政党の党首まで経験し、何度も修羅場をくぐり抜けてきた。野田首相や谷垣総裁とは、役者が違います」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)

 たしかに政界を見渡しても、小沢一郎に対抗できるだけの理念を持ちあわせている政治家はひとりもいない。過去20年間、日本の政治は、小沢の考えに「賛成」か「反対」か、小沢一郎を軸に動いてきたのが実態だ。

 致治評論家の森田実氏はこうみている。「いま民主党も、自民党も、大マスコミも、消費税をアップさせるために小沢一郎という大きな存在を利用しているのだと思います。このまま消費税アップを掲げて選挙に突入したら、民主党自民党も惨敗するのは目に見えている。そこで、マスコミと一緒に悪人に仕立て上げた小沢一郎を “反消費税”の頭目にすることで、“消費税問題”を“小沢問題”にスリ替える魂胆でしょう。まともな政治家なら消費税アップに反対するのは当然なのに、小沢一郎は “政局”のために反対しているという流れをつくり、消費税を政策ではなく政局にしてしまうハラでしょう。“親小沢”か“反小沢”かで動いてきた日本の政治を逆手に取るつもりです」曰本の政治は、何でもかんでも小沢。“小沢抜き”では動かなくなっている。

 

小選挙区制を導入して以来、日本の政治は劣化

 

 しかし、小沢以外に政治を大きく動かせる人物がひとりもいないなんて、情けないことだ。小沢一郎が刑事被告人となっても力を持ちつづけているのも、ほかに代わる人物がいないからである。小沢一郎が消えていなくなったら、日本の政治はどうなるのか。


 なぜ、日本の政治はこんなバカなことになってしまったのか。「政治家が小粒になり、サラリーマン化したことが最大の理由です。20年前、30年前の国会議員は、バイタリティーにあふれ、一癖も二癖もある人物がほとんどでした。政治家を目指した理由も、二度と戦争を起こさせないためとか、貧しい地元を豊かにしたいとか、生活と体験に根ざした確固たるものだった。高い志をもっていた。小沢一郎クラスの力量を持った政治家は、何人もいたものです。ところが、松下政経塾出身者を代表とするように、いまの政治家は“言うだけ番長”ばかりになり、実体験に乏しいから他人を説得する力がない。だから、政治を動かせない。これでは百戦錬磨の小沢一郎に太刀打ちできるはずがありません。やはり大きかったのは、小選挙区制を導入したことです。良い悪いは別にして、中選挙区時代は派閥のなかで鍛えられ、着実に実力をつけていった。誰もが雑巾がけから始めたものです。しかし、いまでは力量もないのにメディアで顔を売っただけの連中がハバを利かせている。政界が劣化するのは当然です」(山口朝雄氏=前出)


 小沢一郎は、平和な時代にひとり生き残った戦国武将みたいなものだ。だったら、政権に就いた民主党は小沢の力を最大限、使えばよかったのに、排除してしまったのだから、本当にバカだ。


 それにしても、日本は国難に直面しているのに、小沢に代わる政治家がひとりもいないのだから深刻というしかない。

日刊ゲンダイ2012/3/8