国策を問う  沖縄と福島の40年  〔前編〕(1)3・11支援 米の真意 辺見庸

辺見庸ロング・インタビュー
沖縄タイムス 国策を問う
 沖縄と福島の40年 9
       2012.5.10

復帰40年・安保の実相
 作家の辺見庸さんが迫る

 「安保という国策は大震災という『国難』にあっても最重要である」という論理の下、「沖縄の住民はとやかく文句を言わずに、お国のために我慢しなければならない」という新たな押し付けと切り捨てが、今始まりつつある。
 「国策を問う」〜沖縄と福島の40年〜は、作家の辺見庸さん(68)が3・11後の安保環境の変化や復帰40年の実相に迫る。沖縄は単に「島」であり、「石」とみなされてきたのではないか。「戦後民主主義」を根元からはぎ取り、むき出しの現在を提示する。
(特別報道チーム・渡辺豪)

〔前編〕

沖縄今なお「石」扱い


(1)3・11支援 米の真意

 −東日本大震災の約2週間後、ルース駐日米大使が被災地を訪問し反響を呼びました。

 辺見 彼の被災地訪問の風景は実は歴史が大きく移行していくというか、歴史が静かにしいページをめくった瞬間として僕は息を詰めて見ました。“感動的シーン”の陰に歴史の曲がり角がありました。これは復帰40周年の実相ともかかわります。ルース大使は僕の故郷、石巻を夫人とともに訪問し、同行した米太平洋軍司令官も奥さんと一緒でした。まだ余震が激しいなかですから、相当の覚悟であったことは間違いない。あのとき米軍は同時に沖縄の精鋭部隊を含む将兵2万4千人を被災地に出し、さらに空母ロナルド・レーガンなど20隻以上の艦艇、190機の航空機を動員して、自衛隊と緊密に連携し作戦を実行した。ルース大使はホワイトハウス中枢でもかなり大統領に近い人ですね。戦略的に物事を考えることができる人だと思います。
 そういう背景を見れば、同盟国への単なる友情表明ではありえません。多角的効果を計算した戦略的な演出という側面を見落としてはなりません。[ルース大使はよい人だ]とか、「米軍はよい軍隊だ」というふうな感情で片づけられる風景ではない。わたしは日本の沖縄以外の地域を沖縄と区別して「本土」と呼ぶのに抵抗を覚える人間ですが、ここでは我慢して「本土」という言葉を用います。ルース大使の被災地訪問および米軍の救援活動について米国側は連日すごい広報をしている。「トモダチ作戦」は対日関係、対中国を強く意識し、朝鮮半島情勢をにらんだ、まさに総合的な日米共同オペレーションでした。そういう重要な側面を削いで本土メディアは報じた。
 かつて吉田茂首相は朝鮮戦争が勃発したとき、「天祐」と言いました。天の助けだ、と大喜びしたのです。とんでもない暴言なんだけれども、日本にはそれを恥じいり吉田茂を糾弾する世論はなかった。戦後間もない時期、貧困の淵にあった日本には朝鮮戦争反対の本格的運動はなく、戦争特需で儲けることができる、ビジネスチャンスだと、あの大きな戦争をとらえたのです。それとは異なる文脈だけれどもアメリカ側はこの震災、原発事故を、同盟国が苦難に陥っていると同時に、その苦難というのが米国にとってはひとつの失地回復のチャンスだというふうにとらえた。それは想像に難くありません。国務省国防総省が中心になって、作戦計画がねられたのは当然です。日米関係は特に民主党政権になってから、あっちいったりこっちいったりして不安定でした。日米関係が不調な中で3・11が起きたということは、もう一気に挽回できるチャンスだというふうにとらえない方が嘘であって、それが外交というものです。外交には常に表舞台と裏舞台があり、謀略もあれば暗闘もある。画策、密約、大芝居は外交の常です。
 ルース大使は首相よりも早く石巻に行き、被災者を涙ながらにハグした。それは嘘ではない。しかし、それをもって米国と米軍=善と結論するのはどうでしょうか。日本の特にテレビメディアは、米国の狙い通りに報道した。あれを見ていると、まるで国務省の広報番組そのもので驚きました。大多数の人たちはルース大使が、まだ余震の激しい中、現地へ来たことにものすごく感謝したし、大きな拍手を送ったのは事実です。ただ、そこに戦略的背景というものを見なかった。それをうすうすは感じていても、書くことができなかった、主張することができなかったメディアつて一体何なんだろう。3・11以降の日本の報道姿勢というのは、戦後報道史上でも最悪の堕落というのかな。原発メルトダウンの話も含めて、あるべき報道の機能を果たしていなかったんじやないですか。

 −辺見さんは、故郷の石巻がそういう「舞台」に選ばれたことをどう受け止めましたか。

  辺見 ショックでしたね。石巻の風土を知っているだけに非常にびっくりしたし、もっと巨視的に言うと、これで沖縄の基地問題で注文をつける精神的なバネというものがなくなったか、一気にゆるんでしまったのではないかと危惧しましたね。