「仏教とは誰でも進める生涯学習 」 仏教とは何か

   仏教とは何か

仏教とは何か−ということは、人間とは何か−ということと同じと云ってよかろう。私の師、水野弘元先生は仏教を説明して、『人間はいかにあるか、人間はいかにあるべきか』と云われる。

仏教とは人間を求め、人間のあるべき「ありよう」を求めるものである。その意味ではいろいろな宗教の中で、一番人間くさいものと考えてよかろう。少々比較して考えると、キリスト教においては神を求め、神が分らないからますます神を求めるということになろう。仏教は人間を求め、人間が分らないから、ますます人間を求めるようになるということであろう。

仏教はなぜ、そんなに人間を求めるのであろうか。釈尊の当時も多くの人々は神を求めていた。釈尊もまた同じように神との一体化という経験を求めて出発した。しかし釈尊においては他の人と違っていたようである。王子として恵まれた生活の中に居て、いわゆる不幸、苦しみというものを持っておられたのではない。何不自由のない生活、そこから神を求めても、そのことになり切れなかったのではなかろうか。当時の神々の意味は、幸せを与えてくれるものか、神秘的体験としての神との一体化を目的とするものであったから、釈尊としてはつねにそうした意味の神に対して疑問を持ち続けておられたのではなかろうか。

苦行や冥想によって、かりに神と一体になったという特殊経験をしても、それから日常性に返えれば、あい変らず、人間としての意味は分らないのである。こうして六年間の修行をくりかえす中に、人間そのもの、人間が持っているに違いない意味を考えられるようになられたに違いない。こうして幸福を約束してくれるはずの神から、人間そのものゝ存在の意味を求める修行へと転換してゆかれたのである。人間としての最大の苦しみは何か?それは不幸でも死ぬことでもない。生きている意味が分らないことである。

こうして釈尊はついにその人間の存在する意味をつかまれたのである。それは真理を発見、体得することであると。
(三宝 105号 1982年6月1日刊)          田辺聖恵

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