おりじなる童話 おかあさんのて

吉永光治のおりじなる童話

 おかあさんのて


「おかあさん てを みせて」

ともこが だいどころに くると せなかに とびついて いいました。

「いそがしいから あ・と・で」

「ちょっとだけ」           

「はいはい」           

おかあさんは ぬれた てを エプロンで さっと ふくと りょうてを ぱっと ひらいて みせました。        

「あー おかあさんの て かわいそう」

ともこは おかあさんの てを じっと みつめました。

おかあさんの ては ビニールの てぶくろみたいに ごわごわ していました。

「おかあさん いそがしいから もういいでしょう」  

おかあさんは てを ひっこめると ばたばた いそぎあしで だいどころを でていきました。

ともこは おかあさんの しごとって いっぱい あるんだなあって おもいました。

ともこが あさ おきると ちゃんと ごはんが できている。

ともこが ようちえんから かえって くると そうじを している。

ともこが おやすみの あいさつを するときも おかあさんは ハンカチや おとうさんの カッターに アイロンを かけている。

「おかあさんの て あそべないんだわ」

ともこは おふろばを そうじ している おかあさんの ところへ はしって いきました。

「おかあさんの て いつ あそんでいるの」

ともこは おかあさんの かおを のぞきこんで いいました。

「さあ いつあそんでるかしら」

おかあさんは ふろばの タイルを ごしごし あらいながら いいました。

「おかあさんの て おしごとばっかりして あそんでないよ」 

「いそがしいからね」 

「て あそばして あげないと だめ」

ともこは きゅうに だまって しまいました。

おかあさんは ふろばを あらい おわって たちあがったら ともこが まだ たっていました。  

「まってたの」

ともこは こくんと うなずきました。

「おかあさんの て あそばせて あげましょうね」 

ともこは おかあさんと てを つないで こうえんに はしって いきました。