三宝法典 第二部 第七七項 最後の直弟子

最後の直弟子

時にスバッダと名づくる修行者、クシナーラーに住せり。世尊が入滅なしたもうを聞きて思えり。

「われかつて、年老いたる師の語るを聞けり『アラハン・正等覚者たる如来の世に出現なすは極めてまれなり』と。しかるにシャモン・ゴータマは今夜半、入滅なしたもう。われに疑問あり。この教えを受けん。」と。

かくてスバッタはサーラ林に至り、アーナンダにその願いを告げたり。アーナンダは言えり。

「スバッタよ、止むべし。如来を煩わすことなかれ、世尊は疲れたまえり。」と。

この問答三度におよび、世尊これを聞かれて許したまえり。

「アーナンダよ、スバッタをさまたぐるなかれ。スバッタは知らんと願いて煩わさんとなすにあらず。かれの疑問を解きなば、かれはすみやかに悟るならん。」と。

スバッタは喜びて世尊のみもとに至り、礼拝なして問いたてまつれり。

「友ゴータマよ。世にもろもろの師あり、かれらまこと悟りたるや悟らざるや。」

「止めよスバッタ。かれらの悟りたるや否やを問答なすは無益なり。われおんみに説かん。よく聞きて思念なすべし。スバッタよ。いかなる法と規律においても八聖道の見出だされざる所には、第一のシャモン果も見出だされず、ないし第二第三第四のシャモン果も見出だされず。いかなる法と規律においても八聖道の見出ださるる所には、これら四つのシャモン果が見出ださるるなり。わが法と規律においては八聖道は見出ださるるなり。このゆえに四つのシャモン果も見出ださるるなり。

他の言論は真の出家にとりてはむなし。さればスバッタよ、ビクらはここに正しく住すべし。この世界はアラハンにとりてむなしからず。

  スバッタよ、われとし二十九にして、
  善を求め出家せり。
  スバッタよ、われ出家してより、すでに五十一年
  真理正法の地を旅ゆけり。
  この外にシヤモンの果はあらざるなり。」

これを聞きでスバッタは三宝に帰依し、世尊のみもとにての出家を願い、受戒を願えり。

「スバッタよ、教団の規律にて、異教徒が入団なさんとせば四ヵ月、別住すべきなり。四ヵ月ののち、ビクらの同意あらば、修行のために出家せしめ、規律を受けしむ。されど個性の差異は考えらるべきを、われは認むるなり。」

「世尊、かくのごとき規律なれば、われは四年の間、別住をなさん。」

ここに世尊は、アーナンダおしてスバッタを出家せしめたまえり。スバッタはひとり離れて熱心に修行なし、久しからずして覚りを得たり。

かくて尊者スバッタはいま一人のアラハンとなりぬ。かれは最後の直弟子なり。

南伝七巻一三五頁
四つのシャモン果
預流果・一来果・不還果・アラハン果