おりじなる童話 せんぷうき

吉永光治のおりじなる童話

 せんぷうき

「あつい あつい」

ぼくは あせを とばしながら へやにとびこんだ。

クーラーの スイッチを いれようと てを のばしたら        

「せんぷうきを かけなさい」

おかあさんが でてきて どなった。

「おかあさんのけちんぼ」

ぼくは おかあさんの かおを みながら せんぷうきの ボタンを おした。

「ちぇっ ちっとも すずしくないや」

せんぷうきは おこったように うなりながら まわった。

「だめな せんぷうき」

ぼくは せんぷうきの ボタンを あしで ぽんと けっとはした。

「なにするんだよ。ぼく いっしょうけんめい かぜ おくって あげて いるんだぞ」 せんぷうきが どなった。

「おくって あげてるって ちっとも すずしく ないじゃないか」

ぼくは つんつんごえで どなった。

「そんなこと いうと ぼく おこっちゃうぞ」

せんぷうきは すごい はやさで うなりだした。

ぼくは あしを ふんばっだけど だめだった。

「うあっ とばされちゃう」

ぼくの からだは ごむまり みたいに ふきとばされた。     

まどを とびだし かきねを こえて のはらを こえて やまを こえて くもをつきぬけ どこまでも ふきあげられていった。

「うあーたすけてー」

ぼくは こわくて めを つぶった。

「ドシン」

とつぜん ぼくは なにかに ぶつかって ボールみたいに ころがった。

「あいたたた」

めを あけたら ひろい そうげんが ひろがっていた。

そらを みあげると たいようが ギラギラ もえていた。

めの なかに あせが ながれこんできた。

「みずが のみたいなあ」

めのまえを かげろうが もえていた。

とおくを キリンが あるいている。

ぞうが ゆらゆら あるいてる。

「あっ いえがみえる」

とおくに まるたごやが ぼんやり みえた。

ぼくは はあはあ いいながら いえに むかった。

「ごめんください」

ドアを あけた。

へやには だれも いなかった。

テーブルの うえで おおきな せんぷうきが うなりながら まわっていた。

「うあー。すずしい」

ぼくは へやに はいって せんぷうきに かかった。  

「ウオーッ」

とつぜん ライオンが とびこんできた。

「あっ ぼく たべられちゃう」

ぼくは せんぷうきの ボタンを おして ライオンに むけた。

「ライオンを ふきとばせ」

「ウオ~ン」

ライオンは さけびごえを あげて ふきとばされた。

「やった やっつけた」

「なにを やっつけたの」

とつぜん うしろで こえがした。

「ねむりながら せんぷうき かかってると かぜひくわよ」

おかあさんが せんぶうきの ボタンを おした。