三宝法典 第二部 第四三項 アーナンダの説法

アーナンダの説法

時に世尊、カピラ城外、ニグローダ林にとどまりたまえり。カピラ城の人々、新しき会堂を建てれば、その祝いに世尊を招待せり。

世尊はこの請いを受けられ、衣と鉢を持ちて、ビク衆と会堂に参り足を洗いて堂に登り、中央の柱に近く東に面して座をとりたまい、ビクらは西の壁ぎわに近く東に面して坐し、カピラ城の人々、東の壁ぎわ西に面して坐し、世尊を礼拝せり。
 
灯火の光り輝き、夜のふくるまで、世尊は法を説きて正導なしたまい、やがてアーナンダをかえりみ、
 
「アーナンダよ、このシャカ族の人々に修道者の道を教えよ。われは背に痛みあれば、しばらく横にふして休まん。」

と仰せられ、僧衣を四つにたたみて敷き、右脇にふして休みたまえり。

アーナンダは仰せを受けて法を説けり。

「マハーナーマよ、如来の弟子は規律を守り、五官の戸口を守り、食の量を知り、夜にも坐し、眠りをむさぼらず、七つの正法をそなえ、四つの心統一に入り、現在に法の楽しみを得て住するなり。
 
規律を守るとは、如来の定めたまえる規律を保ち、行いを正しくし、小さき罪にも恐れを見、精進して学ぶことなり。五官の戸口を守るとは、眼をもって物を見、耳をもって声を聞き、鼻をもって香りをかぎ、舌をもって食を味わい、体をもって肌にふれ、心をもって物を思うに、物の姿、形に執着せず、また悪しき思いをひき起こす姿をなさずして五官をおさゆるなり。
 
食の量を知るとは、正しき思いをもって食をとり、虚栄のため、昧のむさぼりのためになさず、この道を修むる身を養い、苦しみの起こらざるがために食するなり。
 
夜も坐し、眠りをむさぼらずとは、昼は坐し、あるいは歩き、禁ぜられたる法より心を守り清むるなり。夜の初めにも坐し、あるいは歩き、禁ぜられたる法より心を守り清むるなり。夜の中ばには、足と足を重ねて右脇にふし、正心正念にして起き出ずるべき時を思うて眠るなり。夜の終わりには起き出でて坐し、あるいは歩み、禁ぜられたる法より心を守り清むるなり。

七つの正法をそなえるとは、如来の大智を信じ、かの世尊は、如来・応供・正等覚者・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・ブッダ世尊なりと信じ、悪しき行いを恥じ、多く学び、精進し、正念を保ち、物のうつり変わりを明らかに知る知恵をそなえるなり。
 
四つの心統一に入り、現在に法の楽しみを得るとは、むさぼりを離れ、不善を離れ、第一段、二段、三段、四段と自由に心の統一に入ることなり。
 
マハーナーマよ、如来の弟子はかくのごとくなすなれば、腐らざる卵を温めたるめん鳥がひな鳥の現れ出ずるを待つがごとく、煩悩を滅し、覚りに至り、無上の安らぎに達するなり。かかる弟子は明行足と言われ、過去世に通じ、他の心に通じ、覚りに通じ、心の解脱をこの世において実現なすことを得るなり。」

世尊、この時起き上りて、アーナンダの説法を褒めたまえり。カピラ城の人々、歓喜してこれらを信じ受けたり。

南伝一〇巻一〇七頁中アゴン五三有学経

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