結局、無傷の霞ヶ関官僚がヌクヌクと生き残り、自民、公明が漁夫の利を得たのが今回の選挙だった。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■12月某日 沖縄もだいぶ肌寒くなった。昼間は短パンと半袖でもまだ大丈夫だが、さすがに夜になれば長袖かジャケットを羽織らないと外出するのが億劫になるほどだ。最高気温は今でも18度くらいはあるので東京に比べればマシな方だろうが、沖縄移住生活が長くなって亜熱帯の気候に体がなれてしまったせいもあるのだろう。この分では、沖縄が一番冷え込む来年2月くらいの寒さに耐えられるのか心配になる。ま、それも体の方が徐々に適応していくのだろうが、正月は一年中プールで泳げる熱帯のマニラで過ごす予定なので、それだけが当面の救いである(苦笑)。
 寒さといえば、気候のせいだけでもなさそうだ。民主党自爆テロ解散総選挙で、自民党が大きく躍進し、連立を組む公明党と合わせれば、衆議院議員議席の3分の2を獲得したこともある。戦後政治を大きく変える可能性を打ち出した民主党政権交代に多大な期待をした筆者にしてみれば、鳩山元総理が掲げた官僚制打倒の政治主導の方針が、菅直人野田佳彦という二人の総理によりズタズタにされた後に、出戻りの安倍総理が誕生するという政治の流れに対する絶望と諦念もある。いまさら言ってもしょうがないが、瀕死の自民党を再生させた責任は菅、野田という二人の政治家にある。その黒幕として霞が関官僚に寄り添い、民主党を第二自民党路線に転換させた仙谷由人が落選したことは喜ばしい限りだが、ヌエのような自民党の幹部たちを復権させた責任は大きい。出戻りの安倍総理が、これまた役目を終えた政治家である麻生太郎財務大臣で迎えるという報道を読むと、うんざり感がさらに増してくる。麻生だけではない。高村正彦菅義偉谷垣禎一甘利明林芳正石原伸晃細田博之小池百合子小渕優子鴨下一郎茂木敏充浜田靖一山本一太逢沢一郎、大田昭宏、根本匠などという顔ぶれを見ると、気が遠くなるような厭世気分になる。
 やはり、民主党がとことんダメすぎた結果なのだ。自民党が旧態然とした体質を一新するには、あと5年くらいは最低必要だった。満を持して総理に就任する安倍総理は、日銀に対して無制限の金融緩和や、建設国債の発行などを要請している。国土強靭化の名のもとに10年で200兆円の公共工事計画も打ち出している。選挙戦中は公言しなかった原発の再稼働も早々に打ち出した。おそらく親米の安倍にすれば、TPP参加表明も時間の問題だろう。憲法改正集団的自衛権尖閣の公務員常駐化は次の参議院選まではペンディングだろうが、「竹島の日」の制定は大きくトーンダウンした。公約に掲げれば、民主党政権の二の舞になるという判断で、選挙戦中には明言しなかった政策も言ったもん勝ちの勢いで放言している。久々にメディアに注目されてうれしいのだろうが。
 とりわけ沖縄県民を仰天させたのが、21日に安倍総理普天間基地辺野古に移設する方針を明言したことだ。今回の選挙では、沖縄4選挙区のうち、1区、3区、4区で自民党が勝利し、2区も比例で復活当選した。前回の衆議院選挙では、自民党は全議席を失ったのに、ほぼ全員復活である。しかも、沖縄の自民党議員は、普天間基地の県外移設を主張して当選した。沖縄では仲井真知事を先頭に県内世論の8割以上は普天間基地の県外移設を要求している。安倍総理は総理を辞めた後の沖縄事情をまったく把握していないのだろう。安倍本人が、まさか総理に再選出されるなんて予想すらしていなかったことの証明かもしれない。
 結局、第三極がばらけたことで、自民、公明が政権に返り咲いた。民主党は次の代表選に馬淵澄夫と比例復活の海江田万里が名乗りを上げるほどの体たらく。民主党に再起の目はなさそうだ。日本維新の会も石原と橋下の代表対立がより一層鮮明になるはずだ。結局、無傷の霞ヶ関官僚がヌクヌクと生き残り、自民、公明が漁夫の利を得たのが今回の選挙だった。その分、日本の先行きはより一層不透明感を増してきた。寒いのは気候のせいではなく、既得権益死守の自民党政治の復活と大手メディアの発信力の大幅な衰退にあるのではないか。
2012.12.24