三つの光景が安全を選ぶ原点 赤川次郎

三つの光景が安全を選ぶ原点
 作家赤川次郎
      (東京都港区 64)
 三つの光景を思い出そう、第一は昨年3月11日、東北地方を襲った大津波の人間の想像力を遥かに超えた凄まじい破埴力。第二は福島第一原発の原子炉建屋が爆発し、屋根が吹っ飛び白煙が上がった瞬間の身も凍る恐怖。第三はその原発を「安全だ」と言い続けてきた専門家たちの、現実の事故を前になすすべもなく、ただ、呆然自失していた姿。
 その後の言いわけや責任転嫁を消去すれば、その三つの現実こそが私たちの安全を選ぶ原点である。狭い地震大国に原発を作り続けてきた政党が政権を取れば、原発を再稼働させる可能性が高い。首都直下型地震南海トラフ地震も、すべてはこれからなのだ。必ず近い将来、日本はまた大地震を経験する。
 次の大地震が起きればすべての原発が無傷でいられるなどと信じる人はいないだろう。再び原発が大事故を起こせば、どれだけの国土が汚染されるか。自衛隊を軍隊にすれば、放射能が防げるとでも言うのだろうか?
 再ぴ原発が爆発したら、子や孫までも放射龍の恐怖にさらされるのだ。有力な政党のスローガンは「日本を、取り戻す」だそうだが、ならば福島の人々に元通りの故郷を取り戻させるのが先決だろう。
朝日新聞 12月14日 声