どちらも次の総選挙を見据えた腹の探り合いに終始していることが、政治空白の根本原因である。  岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■10月某日 国会は閉幕したままで、臨時国会の開催じたいはいまだに未定。外交も内政も難題を抱えており、政治の空白が許される状況ではない。三党合意確認を前提とした臨時国会開催のための党首会談も遅々として進まない。暇を持て余した野田総理は防護服姿で福島第一原発を視察したり、父親に感謝するためか(?)、海上自衛隊の観艦式に参加したり、ノーベル医学・物理賞を受賞した山中伸弥京都大学教授の人気にあやかろうと、ミエミエのパフォーマンスを演じつつ、人気取りに躍起。自民党公明党は年内解散を前提にした臨時国会開催を要求しているが、野田民主党の方は来年度予算や補正予算を含めて自分たちで編成したいというのが戦略かつ本音。どちらも次の総選挙を見据えた腹の探り合いに終始していることが、政治空白の根本原因である。緊急の課題である特例公債法案や一票の格差を是正するための衆議院選挙制度改革だけではなく、大震災復興予算行使の見直し、急がれる徐染活動と中・長期的な放射性処理ゴミ集積場の抜本的見直し、オスプレイ強行配備見直し問題、尖閣竹島をめぐる領土問題などの政治課題は山積み状態だ。決められない政治からの脱却を合言葉に三党合意を推進し、大本営報道をやってきた大手メディアも、政治空白に対する不可解な沈黙は一体何なんだ。
 早ければ今月末に予定される臨時国会が開催されれば、「週刊新潮」が書いた田中慶秋法務大臣暴力団との付き合いや外国人からの献金問題も追及の材料にされるだろう。田中大臣の辞任がなければ、野党は問責決議案を提出するはずだ。少なくとも大臣を選任する場合には、「身体検査」が常識だが、それすらも満足にやっていなかったのだろう。任命責任のある野田総理のふてぶてしい態度を見ていると、この国の将来は危うい。原発、消費税、オスプレイだけでも民意に反している。かといって、自民党橋下徹大阪市長率いる日本維新の会にも期待は持てない。永田町政治じたいに期待が持てないという国民の政治不信感は、メディア各社の世論調査よりも実態の方がはるかに深刻なはずだ。
 その間、ヌクヌクと既得権益づくりに精を出しているのは、霞が関官僚である。山中伸弥教授のノーベル医学・生理学受賞で、民主党がやった事業仕訳に批判的な意見も出ている。しかし、事業仕分けには、法的拘束力はなく、対象とされた事業のほとんどの分野において予算はせいぜい微減か削減じたいが見送られたのが実態だ。単なるパフォーマンスに終わったといっていい。民主党が公約に従って、事業仕訳をやったのは、独立行政法人などの天下り組織の見直しや血税の無駄遣いにメスを入れることではなかったのか。既得権益派が、山中教授のノーベル賞受賞をきっかけに、基礎研究には無駄も年月もかかるという、巻き返し作戦に出ているのも不可解だ。消費税増税に関しても野田総理は国民の信を問うと言明していたはずだが、今や消費税に関しては国民の記憶を消し去り。そのうち、国民の方も消費税増税など忘れて、次期衆議院選挙ではメディア操作も加わり、争点にすらならないのではないか。
 政治が面白くないので、久々に那覇市桜坂劇場でオウムや和歌山カレー殺人事件の弁護人をつとめた安田好弘弁護士の生きざまを描いた「死刑弁護人」や大震災の直後に被災地でカメラを回した森達也監督ら4人組の共同作品「311」を見る。さらに別の日に、「ニッポンの嘘――報道写真家 福島菊次郎90歳」と、最近面識を得たNHK出身の新田義貴監督の栄町市場物語ともいうべき「歌えマチグワー」も見た。仕事柄もあって馬鹿馬鹿しい政界の茶番劇を真剣にウォッチしている立場としては、どんどん虚しくなるばかり。たまには気晴らしに劇場にでも足を運ぼうというわけである。映画ではないが、具志堅隆松氏のズバリそのもののタイトルがついた「僕が遺骨を掘る人『ガマフヤー』になったわけ」(合同出版)も遺骨収集を通して見た沖縄戦の真実が描かれており、興味深い一冊だった。
2012.10.15