出たい人よりも出したい人というという正論は永田町ではもはや死語なのか。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■9月某日 自民党総裁選が終わった。一言でいえば、マスメディアが煽った壮大なる茶番劇だった。相変わらず、長期政権を続けた自民党の体質が垣間見えた意味では面白かったが、期待感はまったくない。出戻りで総裁に選ばれた安倍晋三の体調は大丈夫なのか。美しい国ニッポンを掲げてタカ派路線の「お友達内閣」をつくった安倍前総理の潰瘍性胃腸炎は大丈夫なのか。この病気は不治の病、難病といわれてきたが、米国で新薬が開発されたと弁明はしているものの、安倍総理は勇まし発言の裏でストレスを抱えてきた。政権を下りて6年間の「休養」はとったものの、そう簡単に治る病気とは思えない。詰めの甘い世襲制のおボッチャンにどこまで忍耐勝負の野党の総裁が務まるのか。野田総理―輿石幹事長コンビはしぶとい。下手すると、来年夏の任期いっぱい務める気配十分である。
 ウワシンも安倍晋三に名誉棄損で民事訴訟された経験がある。民事訴訟になる前に来た安倍氏側の内容証明があまりにもアバウト、大ざっぱだったため、当方が逆に質問事項を並べた返答を送ったら逆切れ提訴された。北朝鮮金正日総書記と会談した小泉総理に重用された時代だったためのメンツ提訴だと思っているが、04年早々に一年余りの裁判が和解となり、提訴が取り下げになった。当方が、ウワシン休刊になるので、という理由で弁護士を通じて和解を申し入れた結果だが、実にあっさりと了承してくれた。さすが,おボッチャンとカンシンした記憶がある。安倍スキャンダルの記事を担当したのはウワシン副編集長だった川端幹人だったが、ヤル気満々だった川端も拍子抜けするような電光石火の和解劇だった。その後日談もある。安倍総理誕生で、共同通信の社会部の敏腕記者が同じネタで追跡取材したものの、編集幹部の判断で報道中止となった。その時の編集局長が「NEWS23」の筑紫哲也キャスターの後任となった後藤謙二氏だった。あ、思い出した。川端の「タブーの正体」(ちくま新書)は現在2万2000部らしい。まだ、未読の読者にぜひ薦めたい一冊である。
 それにしても、自民党総裁選の途中で検査入院して戦線離脱した町村信孝議員が車椅子で投票に参加した総裁選のシーンには笑えた。常識的には総栽選は棄権だろうが、石波茂候補嫌いの自民党のドン・森喜朗議員の意向が作用したのだろう。打倒!野田政権で燃える自民党古参の派閥のドンたちがウロチョロしていたのにも笑えたが、おそらくゼネコン・利権政治の復活を狙っている面々なのだろう。安倍晋三総裁に負けず劣らずのタカ派路線の石波茂の軍事オタクぶりにもカンシンしたが、林芳正候補の権力志向ぶりにも驚いた。民主党代表選にも言えたことだが、出たい人よりも出したい人というという正論は永田町ではもはや死語なのか。近々の組閣でイメージ一新をはかる予定の野田総理にはまったく期待できないが、かといって安倍総理憲法改正核武装論もいただけない。自民党総裁選で尖閣諸島をめぐる中国の対日愛国主義が多大な影響を与えたものと見られるが、橋本徹大阪市長日本維新の会もだんだん底の浅さが見えてきた。安倍総裁との連携の可能性十分だが、どちらにしても危うい日本の政治状況だ。
 沖縄で「A1」「A2」のドキュメント映画で知られる監督兼作家の森達也氏と3日も飲む機会があった。むろん、東京での編集長時代から面識はあるが、じっくり話す機会が持てて有意義だった。那覇市桜坂劇場での「3・11」と「死刑弁護人」が映画公開されたため、舞台挨拶や講演のために来沖した森氏に沖縄移住をノンフィクションライターの藤井誠二氏と一緒になって薦める。沖縄はオスプレイ配備で瀬戸際に立っている。藤井氏は沖縄にも住居があるが、「光市母子殺人事件」などの取材を通じて現在は死刑容認派だが、森氏はオウム事件の取材などを通じて死刑反対派。桜坂劇場での二人の対談の一部も聞けて有意義だった。仕掛け人の一人が筆者だが(苦笑)。
2012.09.26