誰も責任を取らない無責任体制は、戦後67年経っても全く変わっていない。霞ヶ関、東電、政治家しかり、だ。 岡留安則の「東京-沖縄-アジア」幻視行日記

■8月某日 8月15日の敗戦記念日、中国側にすれば解放記念日に中国人活動家5人が尖閣諸島に上陸して、中国の国旗を振った。2人は先に上陸して待ち構えていた沖縄県警と海上保安官に説得されたために船に戻ったが、結局総勢14人の活動家が逮捕・拘束された。逮捕された上陸組は、最終的に那覇署などに別々に収容され取り調べを受けた。活動家たちは「釣魚島は中国固有の領土であり、不法侵入ではない」と容疑を否定。ブロックの破片を保安庁の巡視船に投げつける行為もあったことで、公務執行妨害罪に問うべきという強硬論もあったが、結局、検察の出番はないまま、入管当局による「強制送還」という形で一件落着となった。逮捕者の中には中国人ジャーナリストもいたというから、これ以上長引けば、中国政府の抗議が強まり、日中関係に悪影響を与えるとの政治判断があったのだろう。筆者的にいえば、最初からシナリオどうりの終息だった。
 この中国の抗議団に先駆けて竹島(=韓国名・独島)に韓国人大統領として初上陸したのが李明博大統領。身内のスキャンダル発覚で次期大統領選擧が危ないために、人気回復のウルトラCを狙った政治的デモンストレーションだった。結局、実効支配されている竹島から韓国軍を排除する方法はなく、国際司法裁判所に訴えるしかない。しかし、日本が訴えても、韓国が同意しなければ裁判にはならない。7月に、国後島を訪問したメドベージェフ首相に対しても、「北方四島は日本の固有の領土」と念仏のように繰り返すしかなかった。
  ことほど左様に領土問題は国と国のメンツがぶつかり合い、話し合いで解決できなければ、最後は国境紛争、戦争で解決するしかない。古今東西の歴史を見ても、そのことは実証されている。しかし、いまどきそんなやり方が通用するはずがない。石原東京都知事尖閣諸島を東京都で買い取り、実効支配を目論んでいる。しかし、仮に尖閣諸島に日本の自衛隊を常駐させるような事態になれば、どうなるのか。仮に中国の艦隊が総攻撃を仕掛けて、逆に占拠を画策すれば、憲法上交戦権を持たない日本の自衛隊は迎撃できない。自衛隊の常駐というのは、勇ましいかも知れないが愚策中の愚策である。せいぜい、灯台を建設し、船着き場をつくることがぎりぎりの選択だろう。それでも、中国を刺激することは間違いないだろう。
  かつてのウワシン編集長時代には、関係者たちとの酒席の場で、「竹島は爆破して海に沈め、漁業圏での話し合いを持てばいい」「北方四島は、日本が金銭で買い取るか、共同開発ゾーンにすればいい」「尖閣諸島も話し合いで共同開発するしかない」というような持論を展開していた。その後、ロシアは経済力を身に着けたため、まさか買い取るなどという話は通用しまい。やはり、領土問題は慎重にも慎重を重ね、粘り強く交渉を続けるしか術はない、というのが結論だ。
 話は変わるが、恒例の敗戦特集の特別番組で面白かったのはNHKスペシャルの「終戦 なぜ早く決められなかったのか」だった。ロシアの参戦を強く希望したのは米国であり、その際、国後、択捉の割譲も約束していたのだ。最終的に広島、長崎に原爆を投下し、米軍が最小限のリスクで日本の無条件降伏を勝ち取った。敗戦までの半年の間に、日本人の犠牲は50万人以上に上った。御前会議や最高戦争指導者会議でも、決められないトップたちがバラバラの意見や思惑を持っていたためだ。誰も責任を取らない無責任体制は、戦後67年経っても全く変わっていない。霞ヶ関、東電、政治家しかり、だ。
2012.08.17